世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

一気に「攻勢」をかける中国

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は11月16日から22日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 日豪首脳会談、安保協力強化し中国牽制へ(17日)。日米、初のICBM(大陸間弾道ミサイル)迎撃実験に成功と米国防総省が公表(17日)。APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議(オンライン方式)開催(20日)、などです。

 日本や米国、中国など21の国と地域が参加するAPEC首脳会議が11月20日夜、テレビ会議方式で始まりました。議長国はマレーシアです。

 今回の会議は、新型コロナウイルスの感染拡大で落ち込んだ域内経済の回復に向けて、自由貿易の重要性を確認することを目指しています。
 米中対立によって2年連続で見送られた首脳宣言を採択できるか否かも注目点の一つです。

 中国の習近平主席が、名指しは避けながらも米国批判の発言を繰り返しています。
 19日に開催された関連会議では、「われわれが『(経済の)切り離し』をしたり閉鎖的・排他的なグループをつくったりすることはない」と強調。
 さらに20日の首脳会議では、「地域経済の一体化を推進し、アジア太平洋の自由貿易圏を一日も早くつくり上げなければならない」と訴えました。
 そして、中国が参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)の妥結という成果を誇り、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定への参加意欲を初めて表明したのです。

 習氏発言のポイントは以下のとおりです。
◆TPP参加を積極的に検討する
◆中国はさらに高水準な開放型経済の新体制を構築する
◆RCEPの署名を歓迎する
◆中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に基づく連携を望む
◆新型コロナウイルスワクチンを世界の公共財にすべき
 などです。

 米国の政権交代を見据えて、一気に「攻勢」をかけているといえるでしょう。

 米国が離脱したTPPへの参加意欲を示すことで、先に署名したRCEPと合わせて、自由貿易の推進役を標榜する思惑が見え隠れします。
 今後、アジア太平洋地域における影響力を強めようとする戦略的発言と見るべきです。

 現実的には、TPPはRCEPよりも高水準の関税撤廃や共通ルールが明記されています。一党独裁の政治経済体制をも揺るがしかねないTPPの規律を、中国が本気で受け入れようとしているとは思いません。

 TPPには知的財産の保護や国有企業に関する規律の導入などの厳しいルールがあります。参加するためには国有企業改革といった国内対応も必要になり、新規加盟には日本など参加11カ国の同意を得ることが必要になるのです。

 また、RCEPではデジタル分野のルール作りが進展したといわれていますが、中国を念頭においたTPP三原則の一つ、コンピューターソフトの設計図に当たる「ソースコード」の開示を外資に求めることを禁じる規定は盛り込まれませんでした。中国が反対したからです。

 バイデン氏は19日の記者会見で、国際的協調を重視しながら、中国に対しては「ルールを守らせる。懲罰的行動は取らない」と述べていますが、ルールを守らせることが国際的協調によって可能なのかが問題なのです。

 南シナ海を軍事基地化することはないというオバマ大統領(当時)との約束を反故にし、2016年の国際仲裁裁判所の判決(中国の主張は国際法違反)も無視し、「力」による現状変更を続けている中国です。「懲罰」抜きに変化を求めることはできないのです。