愛の知恵袋 129
お手伝いで家庭力を身につけよう

(APTF『真の家庭』250号[2019年8月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

やっと結婚してくれた娘に離婚騒動が…

 あるご夫婦から相談がありました。娘さんが35歳になってやっと結婚してくれて、翌年には孫も生まれ、「ああ、これでやっと安心して死ねる」と思っていたのに、それから1年もたたないうちに別居となり、離婚するかどうかでもめている…というのです。

 「私達はこの娘の教育にどれだけ腐心したかわかりません。小さい時から習い事もさせ、塾に通わせてしっかり勉強させました。お蔭で名のある大学に合格し、大学院まで行きました。卒業後も良い会社に採用され、キャリアを積んで社内でも期待されるほどの働きをしていました。そんな自慢の娘でしたが、30歳を過ぎても結婚する気配がなく、非常に気をもんでいましたが、先般、やっと結婚してくれました。待望の孫も生まれ、ホッとしていたのにこの騒動です。彼は何を考えているんでしょう? うちの娘のどこに不足があるというんでしょうか!」

 物事は双方の意見を聞いてみないと判断できないので、相手の男性からも、事情を聴いてみました。彼によれば、奥さんは頭もいいし、仕事もできる。しかし、炊事や洗濯や片付けといった日常の家事が苦手でした。それで子供を出産したころから、度々パニックを起こし、「あなたは気が利かない!」、「育児の大変さが分かっていない!」と非難するので、彼は家ではできる限りの手伝いをするようにしたそうです。

 しかし、彼女のヒステリーは日増しに高じて、「早く帰って、ご飯つくりなさい!」「そんな会社なら、辞めてしまいなさい!」と激しくなり、ずっと忍耐してきた彼も限界になって、遂に、大喧嘩になってしまった…ということでした。

キャリア志向の子育ての盲点

 この夫婦は極端なケースかもしれませんが、最近は同様な原因による離婚が増えています。本誌先月号では、出産前後の女性の特殊な心理状態と、夫の配慮の必要性をお話ししました。

 しかし、今回のケースでは、夫婦衝突の原因をたどっていくと、仕事と家庭を上手に両立できない夫の不器用さなど、男性側にも問題はあるものの、一番の原因は、最近の若い女性たちに見られる「家事未経験」あるいは「家事経験不足」の弊害です。

 これは、彼女自身の問題ではありますが、もとをたどれば、その親の責任というべきでしょう。「家事などしなくていいから、とにかく勉強しなさい!」と言って、ひたすら高学歴、高キャリア志向の教育をした結果、知識とプライドは人一倍高いが、日常の家事全般は全く不慣れなままで、育児と重なると、なおさらイライラが増してパニックを起こしてしまうのです。

 一方、幼い頃から母親の家事を手伝ってきた女性は、家事をてきぱきとこなせるので時間的にも余裕を持て、更には家事を楽しみながらできるので精神的にも余裕ができて、夫や子供に八つ当たりすることはありません。この差は、結婚生活において歴然と現れます。

子供の教育の目標をどこに置くのか

 教育には、「家庭教育」と「学校教育」と「社会教育」がありますが、学校教育は知識教育であり、社会教育は仕事のスキルアップが中心です。人間性の教育は家庭教育が基本なのです。

 現在の学校教育の目標がどこに置かれているかというと、それは個人としての「自立」です。社会人として自立できる知識と能力を身につけさせることに目標を置いているのです。

 ですから、学校では、授業で社会生活に必要な基礎知識を教え、部活でチームワークなどの人間関係力を培うことに力を注いでいます。もちろん、昨今は30歳になっても自立できないニートもたくさんいますから、この「自立」という目標も簡単ではないことはよくわかります。

 しかし、私がPTAでの講演などでも保護者にはっきり申し上げるのは、「わが子の教育には、もう一つの重要な目標を置くべきだ」ということです。

 子供を教育する第一の目標は、「社会人として自立できる人間にすること」ですが、もう一つの大事な目標は、結婚した時、「家庭人として成功できる素養を身につけさせること」なのです。そういう観点では、正しい意味での「男らしさ」や「女らしさ」も重要な要素になります。

想像以上に大きい〝お手伝い〟の効果

 第二の目標のほうがより高度で、本質的な人間性の涵養(かんよう)が必要とされるものです。そのような人間教育と家庭力の習得は、やはり家庭の中でしかできません。その家庭教育の重責を担っているのが、母親であることは言うまでもありません。

 男の子も女の子も、幼い頃から、母親や父親の手伝いをすることによって学ぶことが山ほどあります。そして、〝お手伝い〟の時は、親子で楽しくやれるようにすることが秘訣です。

 買い物や料理、洗濯や片付け、家の掃除や洗車、庭の手入れや家財の修理、家計簿つけや節約、知人・親戚との交際等を共にすることで、礼儀作法や家庭力が自然と身につきます。その中で、夫と妻の役割、父と母の役割、主人と主婦の役割…これらをしっかりと学んでいけるのです。

 特に、女性は「家庭」という土俵では中心的役割がありますから、家事のベテランになっておくことが、将来の結婚生活をスムーズにしていく大きな力になります。

 それらすべてを娘さんに教えることができる最高の先生は……、お母さん、あなたです!

オリジナルサイトで読む