夫婦愛を育む 120
それでも、人の役に立てるなら…

ナビゲーター:橘 幸世

 3年前、秘書への暴言から大バッシングを受けた元衆議院議員、豊田真由子さん。彼女のインタビュー記事が『婦人公論』69日号に掲載されました。

 事の善しあしは横において、あれほどの騒動の後、また名前を聞くようになるとは思いませんでした。

 実は彼女は公衆衛生の専門家で、2009WHO(世界保健機関)からパンデミック宣言が出された新型インフルエンザの世界的流行の際には、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部で、外交官としてWHOや各国代表と共に最前線で対処した経験があるそうです。

 私が記事に興味を持ったのは、東大→官僚→ハーバード大学院→国会議員と絵に描いたようなエリートコースをたどった彼女ですが、実は自己肯定感が低かった、とあったからです。

 残念ながらその理由には触れておらず、ただこうありました。

 「私は、子どもの頃から自己肯定感が低く、それもあって人の役に立つ仕事に就きたいと思い続けてきました。学生時代に、児童養護施設や障がいのある子どもが通うデイサービスのボランティアをしたことで、より具体的に、医療や福祉、介護などの社会保障を良くするために働きたいと思うようになり、厚生省に入省したのです」(その後、人の役に立ちたくて政治家になります)

 自己肯定感が低いので、人の役に立つ仕事に就きたい。
 この因果関係には、中間が抜けているような気がします。想像の域を出ませんが、人の役に立つことをしなければ自分に価値はない、という思いが無意識下にあったのでしょうか。

 一般的に、自己肯定感が低いと、自分は頑張らないと認められない、と思いがちです(豊田さんも手抜きせずとことんやり抜くタイプでした)。
 頑張ると、時に無理をします。無理をするとゆとりがなくなるので、他者に対してなかなか寛容でいられません。さらに、自分が頑張っているのでそうでない人を見るとイラっとします。それで人間関係が難しくなるんですね。
 やはり自分を受け入れることが良い人間関係を築く土台なのです。

 とはいえ、人の役に立とうとする生き様は貴いものです。
 バッシング後は、死にたい思いに襲われる毎日でしたが、「なんとか踏みとどまれたのは、子どもたちに“自分の存在が、母を生につなぎとめるほどの価値を持たなかったのだ”という痛みを一生抱えさせるわけにはいかない、その一心からだった」と書いてありました。
 どん底の中でも、家族のために生きることはやめなかったのです。

 夫はもちろんのこと、事件の後も彼女の元を離れず支えてくれた人たちがいました。その人たちは、彼女の良さ、彼女が一生懸命生きてきたことを知っていたから、世間の目や一時の妄動に惑わされることなく、離れなかったのでしょう。
 彼女は、どん底に落ちた自分でも受け止めてくれる人たちの中で、肩の力を抜いて生きることができるようになったのかもしれません。そして自分の知見が役に立つならと、恐れや不安を越えてコロナ関連の民放番組にコメンテーターとして出演したのです。

 記事に掲載された現在の彼女の写真は、とても穏やかな顔をしていました。


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