世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

ミネソタ州黒人男性死亡事件と抗議デモの背景

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は61日から7日までを振り返ります。

 この間、次のような出来事がありました。
 トランプ大統領、抗議デモによる暴力鎮圧のための米軍動員に言及(61日)。英ジョンソン首相、香港数百万人にパスポート発給の考え明らかに(2日)。金与正氏談話、脱北者のビラ散布で緊張緩和の軍事合意破棄を警告(4日)。香港で天安門追悼集会、1万人以上が参加(4日)。横田滋さん死去、安倍首相「断腸の思い」と涙(5日)。習主席国賓来日、事実上の白紙に(5日)。米国務長官、中国は「黒人暴行死を利用」と非難(6日)、などです。

 525日、米国のミネソタ州ミネアポリスで、小切手偽造事件の通報を受けた警官らが現場に駆け付け、その場で拘束したジョージ・フロイド氏を圧死させるという事件が起きました。

 ミネアポリスの警察署前に27日夜、数千人が集まり、黒人への人種差別を批判する抗議の声を挙げました。デモ隊の一部が暴徒化して近くの商業施設に放火し、商品の略奪を行い、警察署を放火したのです。

 トランプ大統領は28日、事件の動画を見て「本当にひどい気分だ。衝撃的な光景だった」とし、警察官の対応を批判しました。そして米司法省は、事件の調査に最優先で取り組む方針を表明したのです。

 地元郡検察は529日、この警官を第3級殺人罪で起訴しました。
 しかし抗議活動は全米各地に広がり、ジョージア州アトランタのアフリカ系ボトムズ市長は29日、「これは抗議ではない。カオスだ」と批判し、ミネソタ州のワルツ知事は30日、「ミネアポリスの事態はもはやフロイドさんの殺害に関するものではない。市民社会に対する攻撃だ」と述べ、「秩序を回復する必要がある」として、第二次世界大戦以降で初めてとなる1万人超の州兵を総動員する考えを表明したのです。

 30日時点で、州兵を動員したのは準備段階も含めて14州以上、25以上の都市が夜間外出禁止令を出しています。

 ところが状況は一変します。トランプ大統領が30日、記者団に対して「もし軍隊の派遣を望むのであれば、準備ができている」と述べたからです。この発言を巡って抗議の声は、大統領批判一色になってしまいました。

 国民融和ではなく、対立と分裂へ国民を扇動する大統領として非難の声が次々に上がったのです。大統領選挙をにらんで、トランプ再選を阻むための良い機会として捉えて扇動する勢力が動き出したのです。

 バー司法長官は64日に記者会見を行い、抗議デモが全米各地の暴動に発展した問題に触れ、「極左勢力『アンティーファ』や同様の過激派集団が暴力行為を扇動し、実行した証拠がある」と発表しました。

 さらにバー氏は、「外国勢力が暴力行為を増殖させる目的で(抗議デモと治安当局の)双方をあおりたてている」とも指摘したのです。「特定の勢力が敵対勢力に成り済ます偽情報工作も横行している」と強調しました。

 ポンペオ氏は66日、中西部ミネソタ州の黒人男性死亡事件やその後の抗議デモに関して、中国が米国を批判していることに対して反論しました。
 中国の官製メディアは連日、香港警察によるデモ隊鎮圧が暴力的だと非難されていることを踏まえ、米治安当局によるデモ対応について「暴力的な法執行だ」などと批判しているのです。

 ポンペオ氏は、「中国共産党は、自国の権威主義による人間の尊厳の否定を正当化するために事件を利用している。ばかげたプロパガンダには誰もだまされない」と述べ、さらに基本的な人権や自由を否定し続けてきた中国共産党と、暴行死事件を受けた米国の対応を、さも同一であるかのような政治宣伝を展開するのは「詐欺行為だ」と断じました。

 さらにポンペオ氏は、「中国では、香港でも天安門広場でも平和的なデモ参加者が声を上げただけで、こん棒で殴られる。批判的な言動を報じた記者は長期の禁固刑を受ける。米国では平和的なデモは歓迎される」と、違いを明言しました。

 アンティーファの思想的背景の一つに毛沢東主義があるといわれています。