https://www.kogensha.jp

氏族伝道の心理学 2
心の問題、心の病気とは

 光言社書籍シリーズで好評だった『氏族伝道の心理学』を再配信でお届けします。
 臨床心理士の大知勇治氏が、心理学の観点から氏族伝道を解き明かします。

大知 勇治・著

(光言社・刊『成約時代の牧会カウンセリング 氏族伝道の心理学』より)

第1章 不安と怒り

心の問題、心の病気とは
 まず、考えていかなければならないことは、「心の病」とか「心の問題」というのはどのような状態をいうのか、ということです。心の病の定義は、学問的にはとても難しいものです。心の病を分類しているものに『DSM‐Ⅳ(DIAGNOSTIC AND STATISTICAL MANUAL OF MENTAL DISORDERS Forth Edition)』というものがあります。日本語では、『精神疾患の診断・統計マニュアル第四版』と訳されていますが、これは、米国精神医学界が定めた精神疾患の診断基準のことです。これには精神疾患は、大見出しだけで十七章、さらに細かく分類していくと数百にわたって記されています。有名な「統合失調症(旧・精神分裂病)」や「大鬱病」なども、この診断基準の中で定義され、分類されています。

 ところで、このように多岐にわたる心の病ですが、共通していることがあります。それは何かというと、以下の二つの状態です。

・客観的に物事を見ることができない。
・合理的・合目的的に行動できない。

 例えば、精神病の代名詞として挙げられる統合失調症ですが、その代表的な症状に「妄想」という状態があります。これは、実際にはあり得ないことを信じていることです。例えば、血統妄想と呼ばれるものは、「私は、実は天皇家の血を引いている」とか「自分は、ロックフェラーの隠し子だ」などと信じている状態です。もちろん、実際にはそんなことはありません。こうした妄想という状態は、物事を客観的に見ることができていない代表例です。

 あるいは、心の風邪といわれる鬱病では、「自分なんか、どうせ何をやってもうまくいかない」と思い込んで、身動きが取れなくなっていることが少なくありません。実際には、何をやってもうまくいかないということはありませんし、百点が取れなくても、七十点は取れるかもしれません。しかし、鬱病にかかると、物事を悲観的にしか考えることができなくなってしまいます。これも、物事を客観的に見ることができなくなっている一つの例です。

 また、摂食障害の中で有名な拒食症というのがあります。この病気にかかると、成人女性で体重が四十キロを切るぐらいやせてしまっていても、「まだ太っているから、やせなければならない」と思ってしまいます。この場合も、自分の体型を客観的に見ることができなくなっているのです。このように、心の病にかかっている時には、多くの場合、物事を客観的に見ることができなくなっているのです。
 次に、合理的・合目的的に行動できない、ということについて例を挙げてみます。強迫性障害という病気があります。有名なのは、洗浄脅迫という症状です。この症状は、何か手が汚く思えて、石鹸(せっけん)をつけて十分でも二十分でも手を洗い続けます。本人もどこかで意味がないと思ってはいるのです。でも、やめることができません。

 また、先に挙げた摂食障害ですが、例えばその一つである過食症になると、食べてはいけないと思っていながらも、食べ続けてしまいます。そして食べたのちに自己嫌悪に陥り、吐いてしまいます。このときも、吐いてはいけないと思いながら、吐いてしまうのです。この場合も、頭ではわかっていても、合理的に行動できないのです。

 あるいは、鬱病の場合には、やらなければならないと思っていても行動できなくなります。例えば、会社に行かなければならないと思っていても行けないといった状態です。

 以上に例示したように、心の病にかかっている状態というのは、先に挙げた、「物事が客観的に見ることができなくなる」、「合理的・合目的的に行動できなくなる」という状態であり、それが様々な症状として現れている、と考えることができるのです。

 逆に言えば、心が健康な状態とは、客観的に物事を見ることができ、合理的・合目的的に行動することができる状態です。自分自身にとって都合が悪い現実、見たくない事実にきちんと向かい合って客観的に見ることができること。そして、自分がやりたくない、嫌なことでも、やらなければならないことは、きちんとやる。また、やってはいけないことは、どんな誘惑があってもやらずにいることができる。こうした状態が、心が健康な状態です。

 しかし、私たちにはみな、堕落性があるので、どうしても自分の都合がいいように解釈しますし、やらなくてはならないことでも後回しにしてしまいます。また、やってはいけないことも、ついやってしまいます。それが大きくなって、社会生活や日常生活に支障をきたすようになると、心の問題とか心の病気と呼ばれるようになるのです。
---

 次回は「心の病の張本人−『不安』と『怒り』」をお届けします。


◆『成約時代の牧会カウンセリング 氏族伝道の心理学』を書籍でご覧になりたいかたはコチラ