青少年事情と教育を考える 104
「愛着」に見る母子関係の大切さ

ナビゲーター:中田 孝誠

 「愛着」という言葉をよく耳にします。子供が乳幼児期に特定の養育者(多くの場合は母親)との間にできる情緒的関係性です。

 養育者から愛され、情緒的に深く交流することで、子供の中に安心感が育ち、自律性や共感性など子供の健全発達の基礎になるといわれています。養育者が「安全基地」になり、いつでも戻ってくることができる存在になることで、子供は外部の社会にも飛び出していけるようになります。

 しかし最近、こうした愛着形成が不安定な「愛着障害」が増えているのではないかと指摘されています。

 例えば、学校現場では発達障害の子が増えているといわれますが、実際には「愛着障害」の子がかなり含まれているのではないかという専門家の指摘もあります。発達障害と愛着障害には似たような状況が見られるからです。学校現場の教師たちにとっては、愛着障害の子供たちへの対応が大切な課題になっているのです。

 さて、「愛着」の理論を提唱したのは、イギリスの精神科医ジョン・ボウルヴィです。愛着理論では、特定の養育者は多くの場合、母親になります。
 ボウルヴィは、愛着理論を発表する十数年前に「母性愛の剥奪(母性的養育の喪失)」という理論を発表しました。

 ボウルヴィが施設で暮らしていた非行の問題を抱えた子供たちを調査したところ、どの子も母親との関係が不安定だったというのです。ボウルビィは、母親との関係が不安定だと子供の将来の発達に重大な影響を及ぼすと考えました。

 なぜ母親なのか。特に乳児期の子育てにおいて母親との関係が中心になるのは、生物学的な絆(「ボンド」といいます)があるからだと専門家は述べています。
 母親は子供を守ろうとし、子供は母親を求める。これが愛着の関係性を形成していく上でも大切というわけです。母親の胎内で育った子供にとっては、最も安心感を得られる存在だということもできます。

 母親との関係を強調することには、母親だけに過度に子育ての負担を負わせるといった批判もあります。もちろん母親だけが子育てに関わるわけではありません。父親や他の家族、保育者なども愛着に関わっているともいわれています。

 その辺りのことは、次回以降で書きたいと思います。