2020.02.21 17:00
映画で学ぶ統一原理 5
(この記事は『世界家庭』2018年4月号に掲載されたものです)
ナビゲーター:渡邊一喜
『キングダム・オブ・ヘブン』
2005年公開のアメリカ映画。145分。
中世のキリスト教社会と人間模様を鮮やかに描いた十字軍物語
神学大生だったとき、『十字軍』(ルネ・グルッセ著)という本を読み、人物名や王朝、民族と年号の羅列に、目を回した。結果的に「十字軍」は私から遠のいた。読み終わっても思い出すものがない読書は何とも悲しく、挫折感は大きかった。
「十字軍」は高校の世界史でも必ず扱われるが、その経緯や全貌を説明できる日本人がどれだけいるだろうか。約200年に及んだこの出来事は、その長さ、規模、傾けられた熱量からして、中世そのものだと言える。ゆえに、シンプルではありえないのだ。今回はそんな「十字軍」を扱った映画を紹介したい。2005年公開、オーランド・ブルーム主演『キングダム・オブ・ヘブン』。この映画で私は「十字軍」を諦めずに済んだ。
12世紀イタリアの寒村。主人公はここで鍛冶屋を営んでいるバリアン(オーランド・ブルーム)。そこに、十字軍に参加するための一団が村を訪れた。バリアンはその一団を率いるゴッドフリーから突然、彼が実の父であることを知らされる。そして共に十字軍に参加することを誘われ、悩み抜いた末、参加を決断したのだった。
到着したエルサレムは二つの国に分かれていた。ボードゥアン4世の統治する十字軍側と、サラディンの統治するイスラム側である。この二人は敵対勢力ながらもお互いの力と人格を認め合っており、その関係により二つの国はバランスを保っていた。しかしボードゥアンが病により落命すると、十字軍側は自滅的に狂乱へと突き進んでいく。十字軍の暴挙に激高したサラディン。そしてストーリーは歴史の語る方へと転がり落ちる。
CGとキャストをふんだんに使いながら作り上げられる十字軍物語は、当時の状況と人間模様を鮮やかに再生させ、私たちを歴史の目撃者とする。当然、脚色もあるが、十字軍を考えるうえで、よい導入資料となる。
この十字軍戦争は中世キリスト教社会の闇をあらわにし、くしくもその社会を改革へと推し進める契機となった。また現代まで尾を引く、西洋社会とイスラム社会の確執の発端にもなっている。中世から近世へと移り変わる重要なポイントともなった十字軍戦争を通じ、復帰摂理とその中で生きた人々の姿を、改めて見詰めたい。(『世界家庭』2018年4月号より)
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