歴史と世界の中の日本人
第29回 大村 智
10億人を救った日本人

(YFWP『NEW YOUTH』185号[2015年11月号]より)

 2015年のノーベル医学生理学賞を授与されることになった大村智・北里大学特別栄誉教授(八十歳)。

▲大村智・北里大学特別栄誉教授(ウィキペディアより)

 大村博士の寄生虫によって引き起こされる感染症の治療の開発に対して、ノーベル財団は「人類への計り知れない貢献」とコメントした。
 今回の大村博士のノーベル賞受賞は、アフリカなどの熱帯地方に蔓延していたオンコセルカ症の特効薬イベルメクチンの発見・開発に対してである。

 大村氏は四つの「顔」を持つといわれる。

 第一に「研究者」としての顔である。
 都立の夜間高校の教師から研究者に転じて、数々の抗生物質を発見して重い熱帯病を撲滅寸前まで追いやった。
 国際的な産学連携を主導し、約250億円の特許ロイヤルティーを研究現場に還流させた実績を持つ。

 第二に「法人経営者」としての顔である。
 財政的に行き詰まっていた北里研究所を立て直し、新しい病院を建設した。

 第三に「指導者」としての顔である。
 大村博士は美術への造詣が深く絵画のコレクターとしても知られ、要請を受けて女子美術大学理事長を十四年務めている。
 公益社団法人山梨科学アカデミーを創設し、故郷の人々への科学の啓発に尽力した。

 第四に「教育者」の顔である。
 大村門下から輩出した教授は31人、学位取得者は120人余り。
 大村博士は、公平で誰にでもチャンスを与え、意欲を見せれば支援を惜しまない人材育成者だ。

 大村博士が発見・開発したイベルメクチン。これを少量一回投与するだけでオンコセルカ症の原因となるフィラリアの幼虫を駆除できるため、世界保健機構(WHO)がメルク社(大村氏が共同研究を行っている大手製薬会社)から無償提供を受けて2012年までに延べ10億人以上に投与している。

 WHOは、西アフリカでは2002年までに少なくとも4千万人のオンコセルカ症の感染を予防したと報告し、2020年にはこの病気は撲滅すると予測している。

 大村智博士は10億人を救った日本人なのである。

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 次回は、「南極大陸の一角に輝く日本人の世界的業績」をお届けします。