愛の知恵袋 99
好きこそ物の上手なれ

(APTF『真の家庭』218号[2016年12月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

転職しても長続きしない夫

 30代でパートの仕事をしているA婦人から相談を受けたのは、5年ほど前でした。

 家族は子供が2人いて、もともと夫婦仲も良いほうだったのに、夫が転職を繰り返し、収入が安定しないので、ついつい喧嘩になってしまうということでした。

 「うちの夫は就職しても長続きしないんです。それで転職するんですが、半年もしないうちに『自分には合わない』と言ってまたやめる…。その繰り返しです」

 「ご主人は、適応障害とか、何か精神的問題をお持ちですか?」

 「私も最初はそうかな?と思ったんですが、そういうことでもないようです」

 「では、働くこと自体を嫌がるとか、やる気がないというわけではないんですね」

 「はい。辞めたら、ハローワークや情報誌で必ず次の仕事を探します。その時には、私も手伝っていますから…」

 「今まで、どんな点を目安にして、仕事を探してきましたか?」

 「もちろん、少しでも給与や福利厚生の条件がいいところですけど…」

 そこで、私はひとつ思い当たることがあったので、仕事の探し方を変えてみることを提案しました。

 「給与や福利厚生の良いところではなく、ご主人が好きな分野、得意な分野に絞って仕事を探してみてはどうでしょうか」

仕事を辞めなくなった夫

 それから3年ほど経ったとき、またAさんから電話がありました。

 「先生、奇跡が起きてます! あのあと就職した所で、夫はずっと働いています」

 「ほう、それは良かったですね」

 「安かった給料もだんだん増えたし、何より、夫の顔つきが変わっちゃったんです。仕事に張り合いがあるらしくて、生き生きしてるって感じです!」

 彼女は、私に相談したあと、夫とじっくり話し合って、“好きなことは何か”を考えたそうです。彼が好きだったのは自然や植物で、園芸が趣味でした。そこで、ある造園関係の会社に就職しました。会社が小さいことや給料が安いことが気にはなりましたが、好きな分野であることを第一優先にして決めました。すると、彼は半年たっても、1年たってもやめませんでした。それどころか、どんどん技術も上達して、今では、先輩から「見どころがある!」と言われるようになっているとのことでした。

好きこそ物の上手なれ

 『好きこそ物の上手なれ』ということわざがあります。「どんなことであっても、人は好きなことに対しては、熱心に取り組めるので上達が早い」という意味です。

 最近、「仕事が長続きしない若者が増えて困っている」という話をよく耳にします。そして、“ゆとり世代” “夢がない” “わがまま” “根性が足りない” “協調性がない”といった点が指摘されます。

 確かに、戦中・戦後のハングリーな時代に生きてきた世代から見れば、恵まれた環境で育ってきた世代には、そういう弱点はあるかもしれません。しかし、仕事が長続きしないのは、もっと別なところにも原因があるように感じています。

 それは、仕事を探すときに、“待遇条件のいいところ”にこだわり過ぎることです。

 初任給、福利厚生、残業の有無、休日、3K(きつい、汚い、危険)でない仕事などの条件、そして、できるだけ大きな会社、名の知られた会社といった点にこだわって探していることが多いのです。

 その結果、「職種に適合できない」「仕事に情熱を持てない」「スキルが身に付かない」という葛藤が起こります。結局、上司や同僚ともうまくいかなくなって、それら全てがストレスになって、仕事をやめてしまうことになります。

好きな分野で、生き生きと働こう

 そんな場合は、給料や外的条件はいったん忘れて、自分は「何が好きなのか」「何が得意なのか」「何なら興味を持てるのか」をもう一度じっくり見極めて、自分が関心を持てる分野の仕事を、小さな一歩からでも、まずやり始めるのがよいと思います。

 人は、自分の好きな事には興味が湧き、熱中することができます。時間も忘れて取り組めるので創意工夫がすすみ、スキルもアップして、その道の“エキスパート”になることができます。やればやるほど伸びていくのです。

 何よりも有難いのは、仕事に違和感や疎外感がなく、喜びを感じることです。

 不思議なことに、自分に合った仕事は、肉体的な疲れはあっても、精神的には疲れません。結局、ストレスがないので、生き生きと働くことができるのです。