2019.12.17 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
米中貿易協議が「第一段階の合意」へ
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、12月9日から15日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
北朝鮮高官がトランプ大統領を「忍耐心を失った老人」と批判(9日)。イラン外相、米国と全ての捕虜交換の用意を明らかに(9日)。国連安保理、米国が北朝鮮公開会合提案(11日)。英国総選挙、与党保守党が圧勝(12日)。トランプ大統領、弾劾訴追へ。米下院司法委が承認、史上3人目(13日)。米中両政府、貿易協議の第一段階合意を公表(13日)、などです。
今回は米中貿易協議の合意について説明します。
中国政府は13日(日本時間14日未明)、両国の貿易協議が部分合意に達したと発表しました。トランプ大統領も「われわれは非常に大きな『第一段階』の合意に至った」とツイートしたのです。
米国はこれまで、合意に至らなければ12月15日に対中制裁関税第4弾を発動すると述べていました。米中二大経済大国は昨年7月から制裁と報復の応酬を行い、世界経済に深刻な影響を与えつつあったのです。まだ、不完全であり不透明なところもありますが、ひとまず「休戦」となります。
米中が合意したポイントは、①合意は第一段階と位置付ける ②米国が12月15日に予定した中国に対する制裁関税は見送る ③合意は知的財産権、技術移転、食品・農産物、金融サービス、為替レート、貿易の拡大など9章で構成される ④米国は発動済みの制裁関税を段階的に撤廃する ⑤約2500億ドル相当の中国製品への追加関税は25%のままとし、15%を課している約1200億ドル相当は7.5%に引き下げる、というものです(中国政府の発表)。
上記の結果を受け、13日の東京株式市場で株価が急騰しました。1年2カ月ぶりに2万4000円台に回復したのです。さらに、英総選挙で保守党が単独過半数を獲得する見通しとなり、英国の欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」への懸念が後退したことも安心感の要因になりました。外国為替市場では安全資産とされる円を売る動きが強まり、円相場は午後5時、前日比98銭円安・ドル高(1ドル=109円62~63銭)となったのです。
このたびの「第一段階の合意」はあくまでも限定的合意です。
米国側の説明では、中国は知的財産権保護の強化に加え、外国企業に対する技術移転の強要をやめることも同意したとされていますが、不明な点が残っています。中国による農産物の購入額も曖昧です。
両国の経済問題を解決する道筋において初期段階といわなければなりません。
中国政府による一部戦略企業に対する膨大な産業補助金といった、米中間の大きな経済問題を根本的に解決するものにはなっていないからです。
米国の対中貿易協議は根本問題の解決を目指さなければならないものであることを理解しておく必要があります。