愛の知恵袋 93
備えあれば、患いなし

(APTF『真の家庭』212号[2016年6月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

不意に襲ってきた災害

 突然、異様な警報音。「地震です! 大きな揺れがきます。直ちに安全な場所へ避難してください!」という声。驚いて見回すと、スマートフォンからの地震警報でした。

 ハッと頭に浮かんだのは、帰省中の娘と1歳の孫が別の部屋で寝ていること。すぐに飛び起きて、「地震が来るよ! こっちの部屋においで!」と呼びよせました。

 ほぼ同時に激しい揺れが襲ってきたので、這うようにして居間の食卓机の下に入りました。「…大きい!」今まで経験したことのない揺れでした。「ついに南海大地震が起きたか?」という思いが頭をかすめましたが、テレビでニュースを聞くと熊本だというのでまた驚きました。

 4月14日午後9時半ごろのことでした。この日、私は仕事の疲れをとるために早めにベッドに横になったところに、突然の地震でした。その後も翌朝まで、56回にわたって大きな余震が来て、そのたびに、居間の机の下に隠れるということが続いて、ほとんど眠れない一夜を明かしました。

▲2016年4月18日現在の熊本城の様子。西出丸の北側石垣と戌亥櫓の櫓台石垣の一部が崩れている。(ウィキペディアより)

異例ずくめの大地震

 大分に住む私達は、南海トラフ大地震と大津波のことが心配で、関心は東の海のほうに向いていました。それが全く反対の内陸部のほうからドーンと来たので、まるで、背後から虚を突かれたような衝撃でした。

 しかし、“想定外”はそれだけではありませんでした。翌15日も余震が続きましたが、「今後は余震だから、そう大きいのは来ないだろう」と思っていたのです。

 わが家では娘が「不安だ」というので、次の夜から3人で居間に布団を敷いて寝ていましたが、夜中の午前125分、またしても警報音が鳴り、一気に激しい揺れが襲ってきました。前夜の地震より揺れが大きく、気象庁は「今回の地震が本震で、最初のは前震でした」と見解を訂正して発表。一連の地震で震度72回も襲ったことは前例がなく全く想定外のことでした。

 また、16日は震源が阿蘇周辺から別府へと大分県にも広がってきて、17日には、逆に熊本の南西部に広がり、結局、別府-島原地溝帯の全域に及ぶことになり、「一度の直下型地震で、こんなに震源域が広がるのは異例である」とのことでした。

 さらに、14日夜から17日未明までの2日半に震度5以上の大きい地震だけで14回、震度1以上では400回を超える余震が発生し、建物や地形が重複ダメージを受けて、家屋倒壊と大規模山崩れが続発し、熊本中心部、阿蘇、大分県西部で被害が拡大しました。その後も余震が頻発し、こんなに余震が多いのも異例とのことでした。

 亡くなられた方々には衷心より哀悼の意をお捧げいたします。また、負傷された方々や避難生活を余儀なくされておられる方々に、心からお見舞いを申し上げます。

“想定外”でやってくる自然災害

 様々な点で異例の連続でしたが、よくよく考えてみれば、阪神淡路大震災の時も、東日本大震災の時も、“異例”で“想定外”のことが多かったはずです。

 思えば、日本という国は、治安が良く民心が穏やかなうえ、全国至る所で温泉が湧き、風光明媚な環境に恵まれている素晴らしい国ですが、火山列島の宿命で、「ここは絶対安全」というような場所はなく、結局どこにいても地震・噴火・津波・台風などの災害とは縁が切れないということです。

 ある意味では、列島住民の“快適税”とでもいうべき代価を支払っているのかもしれません。ならば、私達はそのリスクと共存するしかありません。「この国で生きる限りは、どこで暮らしていようとも、災害への備えだけはしっかりとしておくべきである」ということを肝に銘じておきたいものです。

最低限の備えだけは、常にしておこう

 日本では、政府も自治体もありとあらゆるリスクに備えて可能な限りの防災対策を打ち出していますが、では、私達が自分でできる対策はどんなことでしょうか?

 土砂災害などの恐れのある土地に暮らしている場合は、引っ越しも考えなければなりませんし、耐震性の弱い古い家屋であれば耐震強化工事をしなければなりません。

 現実には経済的事情もあって、できることとできないことがありますが、どんな家に住んでいる場合でも、成し得る最低限の対策だけは必ずやっておきたいものです。

 私達は頭ではわかっていても、「まあ、そのうちに」と考えて先送りにしたり、「面倒くさい」とうやむやにして、最低限の備えすらしていないこともあります。

 激震で散乱する食器棚の対策、タンスや本棚等家具の固定、避難場所の確認、避難する時の非常持ち出し袋、懐中電灯やヘルメットなどは、最低限の自己責任の防備として常に準備をしておきましょう。