夫婦愛を育む 92
HALT!(ちょっと待って!)
~弱い気持ちに流されそうになったら

ナビゲーター:橘 幸世

 感情に流されて発した言葉や取った行動が、良い結果を生んだという話はあまり聞きません。

 昨今はアンガーマネジメントと呼ばれる怒りのコントロール法が本やメディアで紹介されています。
 1、2年前にそんな一冊を読んでみました。怒りの構造は詳しく分析され説明されていますが、その収め方、克服の仕方については物足りなさを感じました。

 私たちの教会でも、血気怒気に走らないよう戒められていますが、己の感情を、そして言動を律するのは、なかなかのチャレンジです。
 また、私たちが流される感情は何も怒りばかりではありません。弱気になったり自棄(やけ)になったりして、頑張ることをやめてしまうこともあります。

 ある上院議員の家族を描いたアメリカの小説の中に、興味深いアプローチを見つけました。

 ドラッグに手を出した次女は、その依存症から脱するための施設に入ります。そして、一定期間のリハビリを終えて家に帰ってきます。
 大変なのは、それからです。自分で、ドラッグの誘惑と闘わなければなりません。その誘惑に対して弱くなるのは、心が折れた時、傷ついた時です。また薬に手を出したのではと姉に疑われて、泣きながら夜の街を歩く彼女は、その晩リハビリ中の人たちが集まるミーティングに参加することになっています。
 ドラッグからクリーンでいるのをサポートするための集会です。でも、傷ついているので行くような気分ではありません。疑われたのだから事実にしてしまえ、もうどうでもいい、となおざりにしかけます。
 そんな時、リハビリテーションセンターのカウンセラーの言葉を思い出します。

 「気持ちが弱くなったら、HALT(ホールト)よ」。それは「止まれ(ストップ)」の意味で、この場合の四つの文字は、「止まれ」に加えて四つの問い掛けを含みます。

 Hは、Are you hungry?
 (おなかが空いているの?)
 Aは、Are you angry?
 (怒っているの?)
 Lは、Are you lonely?
 (寂しいの?)
 Tは、Are you tired?
 (疲れているの?)

 流されそうになった時立ち止まって、これを自分に問い掛け、自分が落ち込んでいる状況を客観的に見るようにするキーワードです。

 彼女は、気を取り直して集会に参加できました。

 確かに、空腹の時、怒っている時、寂しい時、疲れている時、意志が弱くなって、健全な判断ができないことが多いかもしれません。負の感情からの行動が良い結果をもたらすことはないのです。

 気持ちが弱っている時、無理に頑張る必要はありません。まずは立ち止まって休憩(精神的に)しましょう。
 おいしいものを食べたり、のんびりしたり、誰かとおしゃべりしたりして、気持ちが落ち着いてから、先のステップに進みましょう。