2019.10.08 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
米朝実務者協議、北「決裂」と表明
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、9月30日から10月6日までを振り返ります。
この間、次のような出来事がありました。
中国、国慶節で軍事パレード、米本土射程のICBMなど最新兵器を公開(10月1日)。香港デモ、警察官発砲で高校生重体(1日)。北朝鮮ミサイル発射実験、分離した一部が島根県沖の排他的経済水域内へ。潜水艦発射型か(2日)。香港、「緊急条例」を適用、覆面禁止法を5日から導入(4日)。米朝実務者協議開催(5日)、などです。
今回は、米朝実務者協議について説明します。
6月30日の板門店米朝首脳会談からおよそ3カ月、実務者協議が10月5日、スウェーデンのストックホルムで開催されました。しかし会談後の記者会見で、北朝鮮側代表の金明吉(キム・ミョンギル)氏は「決裂した」と述べました。
一方、米国側(スティーブン・ビーガン北朝鮮担当特別代表)は「良い協議」だったとし、北朝鮮側の発言に対して「協議の内容や精神を反映していない」との声明を発表しています。
北朝鮮側の要求は2点に絞られています。核開発の中心である寧辺(ヨンビョン)の施設や既に行った豊渓里(プンゲリ)核実験場廃棄などへの見返りとしての経済制裁解除と、「体制の安全の保証」です。米韓合同軍事演習の完全中止を意味します。これらの要求が受け入れられなかったために北朝鮮側は「決裂した」と表現したのです。
米国側の主張は一貫しています。北朝鮮の「完全なる核廃棄の行程表の作成」です。核計画の申告と検証、寧辺を含む他の施設(米国は名指しで「カンソン」という地名を挙げている)やミサイル施設の廃棄などの工程表を作成し実行することです。それなくして経済制裁の解除はあり得ないし、米韓合同軍事演習をなくすことはできないという立場なのです。
「決裂」という強い言葉を使った北朝鮮ですが、本当の決裂は望んでいません。「問題を、交渉を通じて解決しようという立場は変わらない」と述べています。
北朝鮮側の「強い」態度の背景は、何でしょうか。二つあると思います。
一つは、嫌っていた超強硬派ボルトン氏(前外交・安全保障担当大統領補佐官)が政権から去ったことです。
今年の2月、ハノイで行われた首脳会談を決裂させたのは、ボルトン氏の強硬な意見(核兵器などの完全廃棄後に経済制裁を解除する「リビア方式」)だったとされています。
もう一つの理由は、米大統領選挙です。米朝交渉の決裂はトランプ氏再選にとってマイナスに作用するので、米政権に妥協を迫ることができるとの「読み」です。
しかし米政権にはポンペオ国務長官がいます。
8月31日、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮に対して「ならず者の行動は看過できない」と述べて対北制裁の維持を明言しました。
米国の安保・外交政策にポンペオ氏の影響力はさらに強くなっています。北朝鮮が、米政権の一貫性を見くびる判断の誤りから挑発行為を繰り返せば、思わぬ反撃を受けることになるでしょう。