世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

香港民主派デモ~中国武力介入の可能性高まる

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は8月25日から9月1日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 第7回アフリカ開発会議(TICAD)開幕(8月28日)。日本、韓国を「グループA(ホワイト国)」から除外(28日)。科学誌サイエンス、同性愛遺伝子存在せずとの論文掲載(28日)。香港「雨傘運動」指導者2人を拘束、同日夕に釈放(30日)。香港、無許可で大規模デモ(31日)、などです。

 再び、香港民主派のデモを扱います。
 香港特別行政区・林鄭月娥長官が逃亡犯条例の改正案を公表したのは今年の2月でした。4月に入って反対運動が始まり、6月の立法会(国会)で審議され20日に採択という予定が明らかになるや、民主派によるデモが一気に膨らんだのです。

 政治犯が中国本土に移送される懸念を含む改正案に、民主派および一般市民、さらに香港で働く外国ビジネスマンのほとんどが反対するようになりました。6月に入り、100万人を超える規模のデモが2度ありましたが、それでも行政府は改正案の撤回を表明しません。

 7月以降の動向を見ておきます。

 7月1日、デモ隊が議会を占拠し一部施設を破壊。21日、中国政府の香港出先機関で民主派が抗議活動。
 8月5日、ゼネストの呼び掛けに約35万人が応じ、一部航空便が欠航。12日、デモ隊が空港を占拠し夕方以降発着の全便欠航。翌13日夕方、全出発便の欠航が決定。14日、香港の裁判所、デモ隊の座り込みが続いた香港空港の使用妨害を禁じる臨時命令を出す。25日、警官が空に向けて実弾を発砲。31日、無許可デモが行われ警官と衝突、などです。

 民主派には主に二つのグループがあります。
 「和理非(平和、理性、非暴力)派」と「勇武派」ですが、両派の最大公約数となっている五つの要求(「五大要求」)は次のとおりです。
 ①条例改正案の完全撤回、②6月12日の立法会での衝突を「暴動」と認定したことの撤回、③デモ参加者への刑事責任追及の撤回、④警察当局による暴力行為の調査、そして⑤直接選挙の実現と林鄭月娥氏の辞任です。

 逃亡犯条例改正反対運動は深く広く浸透し、すでに2014年「雨傘運動」(行政長官の直接選挙を要求した運動)連続デモ活動の期間79日を超えました。

 中国メディアは8月12日、中国の武装警察のトラックの車列が香港に隣接する広東省の深圳に集結する様子を伝えました。介入の可能性を示唆し、抗議を続ける若者らをけん制する狙いがあると思われます。

 香港特別行政庁と習近平政権は危機感を強め、「武力介入」の可能性にも触れるようになりました。
 香港特別行政区の林鄭月娥長官は8月27日、デモへの参加や開催に制限を加えることにつながる条例の発動を排除しない考えを表明しました。

 民主派は、「条例」発動は「戒厳令(戒厳とは国の立法・司法・行政の一部または全部を軍に移管させること)と同じ」と反発しています。

 この条例は「緊急状況規則条例」と呼ばれ、英国の植民地時代の1922年に策定されたものです。治安が大きく悪化するなどの緊急事態の際、行政長官は立法会の同意を経ずに、市民の移動や情報の伝達などを制限する規定を発動できる内容が含まれているのです。
 発動されれば、香港基本法で認められている「集会やデモの自由」が制限される異例の事態が生じます。

 習近平政権は10月1日を何とか越えなければならないと考えています。
 この日は中華人民共和国建国70周年の一日です。習近平政権はそのメンツに懸けても、10月1日より前に香港を平定しようとするでしょう。

 緊迫の1カ月が始まりました。