親育て子育て 18
子供の自立心を育てるポイント

(APTF『真の家庭』196号[2015年2月]より)

ジャーナリスト 石田 香

自ら目標を見つけ成長していこうとする子供の心を見守る親に

見守ることの大切さ

 親が子供に願うのは立派な社会人として自立してくれることであり、学校での教育目標の一つもそこにあります。自立した個人が育たないと、社会も発展しません。しかし、自立とは自ら立つと書くように、子供が自分の内面からの力で成し遂げていくものであり、親はそれを手助けすることしかできないのです。

 生家が農家だった河合隼雄さんは、子育ては農業に似ていると言っています。土を耕し、肥料を施し、太陽の光が当たるようにして、後は育つのを待つしかないからです。親という字が「立木の陰から見る」と書くように、子供をそっと見守るのが親、と言う人もいます。どれも「見守る」ことの大切さを語っています。それは、決して「見放す」ことではありません。

 自立心の芽生えは幼児期からあり、子供は何でも自分でやってみようとします。あらゆるものに興味を持ち、周りの大人の言葉をまねて、覚えようとします。それは、早く自立しないと生きていけなかった、動物時代の遺伝子を受け継いでいるからでしょう。

 普通の哺乳類に比べて頭脳が格段に大きく発達した人間は、母体の骨盤の大きさの都合から、未成熟なままに生まれてくるので、牛や馬のように生まれてすぐに立って歩くのではなく、しばらくは親の保護を受けながら育つことになります。

モデルを目標に成長する

 幼児期の自立は、着替えや持ち物の整理など、身の回りのことを自分で行うことから始まります。親は面倒がらずに、子供が自分でするのを見守り、少しでも向上すれば、褒めてあげるようにします。危険なことや善悪を教えるには叱ることも必要ですが、基本は褒めて育てることです。何より、褒めることで親の心もうれしくなり、その気持ちは子供に伝わります。親子、とりわけ母子で十分楽しい時期を過ごすことが、子供の成育にとって大切な基礎になるのです。

 これらについては、「愛着」などで説明してきましたので、その次の段階、子供が自覚的に自立心を持ち始める、小学校中学年からについて話を進めましょう。子供は興味ある事柄や人を手掛かりに、成長していきます。この時期、自分の中にモデルを持つことができると、それを目標に努力し、力を付けていくことができます。

 典型的なのは父親と同じスポーツや仕事を継ぐ場合で、身近な親がモデルになることから、急速に成長していきます。オリンピックで活躍する若い選手などの中に、そんな事例がよくあります。また、家業のある家は安定していると言われます。それは、親が人生と同時に仕事の先輩でもあることから、自然に尊敬するようになるからです。

 一般的には、好きな習い事やスポーツを体験させ、子供の関心がどこにあるのか、親として見極めていくことが大切になります。親の見栄や付き合いで、好きでもないことを習わせてはいけません。どんな指導が行われているのかも、関心を持つ必要があります。とりわけ、古い体質がありがちなスポーツでは、親の関与が間違った指導を防ぐことにもなります。

思春期のスポーツ

 私の息子は小学校4年で、友達に誘われて地元の柔道クラブに入りました。1年間は熱心に練習に通い、地域の大会に出るようになりましたが、肌に合わなかったのか5年の終わりにはやめました。エネルギーが失われていたのか、6年の夏前から不登校になり、カウンセラーや校長先生と相談しながら、回復するのを待ちました。

 6年の終わりには回復して、中学に進んで始めたのが剣道です。これも友達に誘われたからですが、そこで情熱的な先生に出会ったことが、彼のその後の人生に大きな影響を与えたように思います。

 剣道部の顧問は実力もある熱血教師で、面倒見もよく、厳しい練習に耐えながら、部員たちは友情をはぐくんでいました。担任からは、「私が呼んでもすぐには来ないのに、剣道の顧問が呼ぶと走って集まる」と愚痴を言われたこともあります。

 思春期真っ只中の彼は、そこで肉体を鍛え、何でも話し合える友達を得たことで、自立していく手掛かりをつかんだように思います。もっとも、剣道のせいで勉強はかなりおろそかになりました。

親も前向きに生きよう

 高校でも剣道部に入った息子は、さらに熱心な顧問に出会います。勉強よりも剣道のために高校に通うような感じで、中学時代からですが、校外で試合があると車で息子を連れて行くようになります。そのおかげで部員のお母さんたちとも仲良くなり、中学時代の剣道部の母の会は、今も続いています。

 練習を重ね、指導者に恵まれ、息子は剣道ではかなり自信を持つようになったのですが、大学受験の時期になって深刻な事態に直面します。小さい頃から動物が好きだった彼は、獣医になると言い出したのです。三者面談では担任が、君の成績では到底無理だからと言い、夫も農学部まで広げてはと言ったのですが、頑として聞きません。

 奇跡が起こるわけはなく、最初の挑戦は失敗し、二浪してやっと獣医学科に入ることができました。その間、予備校でしっかり習ったので、アルバイトで教えることもできるようになったと言っています。帰省した息子が、中学校の教頭になった剣道部の顧問に会うと、「おまえが人に勉強を教えるようになるとは」と驚いていたそうです。ちなみに剣道は、大学のある町のクラブに入り、おじさんたちと楽しく続けています。

 自分の内面から育つ力を手にすると、子供は親が驚くほど成長していくものです。そうした子供の心の変化を見守るには、親の側も前向きに生きていく必要があります。親の心がなえていたりすると、子供に素直に向き合うことができないからです。