2019.06.25 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
米、イランの対立、限定武力攻撃の可能性
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は6月17日から22日までを振り返ります。
この間、次のような出来事がありました。
米、タンカー攻撃受け米軍約1000人増派決定(17日)。トランプ氏、再選出馬を表明、「偉大な米国を維持」(18日)。徴用工協議に韓国が条件、日本は拒否(19日)。習近平主席が平壌到着、金正恩委員長と会談(20日)。イラン革命防衛隊、米無人機撃墜(20日)。北朝鮮、トランプ大統領が金正恩委員長に親書を送ってきたと報じる(23日)、などです。
今回は、米国とイランの対立問題を扱います。
安倍首相が日本の首相としてイランを41年ぶりに公式訪問し、最高指導者ハメネイ師と会談した6月13日、日本の海運会社が運行するタンカーを含む2隻が攻撃を受けました。
ポンペオ国務長官は「イランに責任がある」と明言し、トランプ大統領は「イランがやった」とツイートしました。イランは否定し米国との非難の応酬が続いています。
さらに20日、イランの革命防衛軍が米軍の無人機を撃墜する事態となり、米国はイランに対してサイバー攻撃で報復しました。
米政権は「イラン核合意」(2015年)に対する不満を持ち、当初(2017年)は合意にとどまりながら、さらに厳しい制限を課すという方針で、再交渉を目指しました。しかし受け入られず、昨年5月8日、離脱を表明したのです。
「イラン合意」とは、2002年にイランでウラン濃縮施設が見つかったことをきっかけに、イランが核兵器を持たないよう、2015年7月に米英仏独中露、EU(欧州連合)とイランが「包括的共同行動計画」で合意したものです。
その内容は、イランは核兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間は生産せず、10トンあった貯蔵濃縮ウランを300キロに削減。1万9000基あった遠心分離機を6104基に限定。見返りに米欧などは金融制裁やイラン産原油の取引制限などを解除する、などとなっています。
米政権の不満は、合意には、①弾道ミサイルの制限がない ②15年間が過ぎた後が不透明 ③テロ支援や周辺諸国への脅しをやめていない、などです。
米政権は昨年5月8日、「イラン核合意」からの離脱を発表。対イラン制裁の全てを再開すると表明しました。
制裁対象によって8月まで90日、11月まで180日の猶予期間が設けられていたのです。その間にイランとの取引を中止しない企業(外国企業を含む)などは制裁対象になることとなりました。
そして11月5日、原油取引などを対象にした対イラン制裁の再発動を再開。しかし日本、中国、韓国など八つの国と地域を一時的な適応除外とすると発表しました。しかし猶予期間は180日(その間に輸入をゼロにすることを求めている)となり、今年5月2日まででした。
米国、イラン共に戦争は望んでいません。しかし限定的な武力行使の可能性はあります。それはイラン自身が「合意」の枠組みを事実上破棄する事態に至った時です。
イランの原子力エネルギー当局は、15年の合意で定められた低濃縮ウランの貯蔵量が、今月27日に規定の300キロを超えると発表しているのです。
その時点でイランは、合意当事国で中露以外の独英仏3国の支持を失うことになるでしょう。アメリカの限定的武力行使の決断要件である国際社会の非難を受けない環境と見ているからです。
G20後、一気に動き出す可能性があります。