夫婦愛を育む 66
彼は彼女の何を見ていたか?

ナビゲーター:橘 幸世

 わが家が購読している地元紙に、女性ライターが交替で執筆しているコーナーがあります。先日そこに興味深い記事を見つけました。

 ライターが中学時代に付き合っていた彼との関係が描かれていて、男女の視点の違い、そしてそれが分からないが故のすれ違いが見て取れる内容でした。

 当時彼は部活後に、自分の家とは逆方向にある筆者の家まで、20分ほど並んで歩いて送ってくれていました。そんなふうによくしてくれた彼は、背が高く、野球部員なのに色白、パッチリ目に長いまつ毛。一方、剣道部の彼女は、練習後で剣道独特の臭いがする(と感じている)自分を恥ずかしく思います。そんな思いに耐えられず、自分から唐突に別れを切り出して、関係に終止符を打ってしまいました。

 根底にあるのは、あんなにすてきな彼にこんな自分はつり合わない、という引け目。その劣等感に耐えられなくなったのです。時がたち、そもそもどうしてこんな自分を選んでくれたのか、知りたくなった彼女は、友達に聞いてもらいました。彼の答えは思いもしないものでした。

 「先生に対して怒っている姿がかわいかったから」

 世間一般で「かわいい」「すてきな女の子」と思われている価値観とは全く違う視点で彼は彼女を見ていました。彼女は、世間一般の尺度で勝手に自分にダメ出しをしていました。

 自己肯定感が低いと愛を受け取れない、と以前本欄で書きましたが、この女性もその一人でした。別れる前に聞いてみたらよかったのに、と客観的には思いますが、多感な中学生にはハードルが高かったのかもしれません。

 こんな自分をかわいいと思ってくれる人がいる、ということを遅ればせながらでも知った筆者は、知る前よりも自己肯定感が増して人生を送れたことでしょう。

 テレビや雑誌に登場するモデルやタレントの姿が、美の基準としていつの間にか私たちの意識の中に刷り込まれています。それに照らし合わせて自分に及第点を出せる女性はいったいどれほどいるでしょうか。

 ちまたに溢れる評価基準に晒(さら)されて、自分の良さが見えず、愛を受け取れないのは悲しいことです。加えて、男女の違いを知らなければ、悲しいすれ違いを繰り返してしまいます。

 最近、『妻のトリセツ』(講談社+アルファ新書)なる本がベストセラーになっていますが、夫婦関係で格闘している男性陣が多いが故でしょうか。一方、女性向けの本『新・良妻賢母のすすめ』(コスモトゥーワン社)を「夫のトリセツ」と呼んだ女性もいました。
 いずれにせよ、男女双方がお互いの違いを学んで、上手に愛のキャッチボールをしてほしいと願ってやみません。