世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

「全人代」開幕、中国はどこに

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 3月5日から11日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 中国、全人代が開幕(3月5日)。北ミサイル基地に「復旧兆候」、韓国国会で報告(5日)。韓国、統一相ら閣僚7人交代発表(8日)。イタリア、一帯一路の覚書締結に動く(8日)、などです。

 今回は、中国の全人代(全国人民代表大会)を扱います。
 全人代は3月5日に開幕しました。会期は15日まで。「第13期第2回全国人民代表大会」が正式な呼称です。「期」は5年に一度の共産党大会の期数を表し、「回」はその期間で何回目の全人代であるかを表しています。

 このような表記から、党大会と全人代の関係が分かります。
 全人代は、憲法では「国家の最高権力機関」とされていますが、党大会の方に重みがあるのです。国家を共産党が主導する、という考え方がレーニン主義の基礎ですから。

 全人代は、各省や自治区、直轄市、郡などから選ばれた3000人の代表が首都の北京に集まって開催されます。日本の通常国会に近いものです。

 今年の全人代は特に注目されています。「米中貿易戦争」が、低成長時代に突入した中国経済を直撃する中で開催されているからです。

 李克強首相による政府活動報告が5日、行われました。国内総生産(GDP)の成長目標は2年ぶりに引き下げられ、昨年度の6.5%前後から「6~6.5%」としました。それでも日本の成長率1%強よりはるかに高い数字です。

 ところがカラクリがあるのです。
 モノとカネを共産党中央が握っているので操作は簡単です。国内総生産(GDP)の4割以上を占める固定資産投資を前年比で20数%増やせば、GDPを2桁台も伸ばせるのです。

 事実そのようにやってきたため、農村部や辺境では、返済困難になった巨大プロジェクトが至る所で放置されています。収益を生まない投資が債務となって膨らんでいき、今後の成長を妨げることになります。

 米国との対立が経済、安保、外交などに困難さを生じさせています。習近平政権はそれでも前進しなければなりません。習近平氏への求心力の低下を避けなければならないのです。

 共産党中央宣伝部が監修したスマートフォンのアプリが急速に広がっています。1月1日から配信が始まりました。
 アプリの名前は「学習強国」です。<習氏に学ぶ強国>の意味が込められており、チェックするたびにポイントがたまり、景品にも交換できるのです。毎日30ポイントをためるよう職場で定められている所もあるとのことです。

 このような動きは、毛沢東個人独裁時代を想起させます。
 防衛予算や米国に配慮した外国企業への技術移転強要を禁じる「外商投資法」などの承認、成立なども予定されており、世界が注目しています。