愛の知恵袋 49
愛は山びこのように

(APTF『真の家庭』159号[2012年1月]より)

松本雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

 明けまして、おめでとうございます。この一年が皆様とご家族にとって、良い年となりますようお祈りいたします。

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こだまでしょうか
 「遊ぼう」っていうと、「遊ぼう」っていう。
 「ばか」っていうと、「ばか」っていう。
 「もう遊ばない」っていうと、「遊ばない」っていう。
 そうして、あとでさみしくなって、「ごめんね」っていうと、「ごめんね」っていう。
 こだまでしょうか、いいえ、誰でも。

 東日本大震災のあと、厳しい境遇にある被災者の心を癒やしている一人の詩人がいます。冒頭の詩、「こだまでしょうか」の作者、金子みすゞさんです。彼女は、1903年(明治36年)山口県の海辺の町に生まれ、若き童謡詩人として将来を期待されていましたが、23歳で結婚し一人娘をもうけた後、放蕩三昧の夫から詩作を禁じられ、辛い日々をすごしたのち離婚、1930年(昭和5年)、26歳の生涯を終えました。

 苦しみのどん底にあっても、凛として清らかな心を失わず、明るく生きようとした一途な姿が、私達の胸を打ち、疲れた魂を癒やしてくれるのでしょう。

人間の心は山びこと同じ

 こちらが無愛想に「ふん!」と無視すれば、相手からも「ふん!」と無視されます。相手に「バカ野郎!」と叫べば、相手からは「大バカ野郎」と返って来ます。

 しかし、こちらが笑顔で「こんにちは」と語りかければ、相手からも「こんにちは」と、笑顔が返って来ます。こちらが親切にすれば、相手からも親切が返ってきます。

 みすゞさんの言うとおり、全く、人の心は”山びこ”のようです。

 人間社会の中では、”言葉の使い方”が決定的な意味をもちます。特に、家庭における夫婦の関係は、言葉づかい如何によって大きく左右されます。

 カウンセリングをするようになって20数年になりますが、私の知る限りでは、「顔のつくりが粗末だったために離婚された」という話は一度も聞いたことがありません。しかし、「言葉づかいが粗野なために破綻した」というケースは、枚挙にいとまがありません。

愛情は「もっている」だけでは不十分

 「日本人は愛情表現が不器用だ」と言われます。若い頃その話を聞いた時は、「そんなことはないんじゃないか」と思っていましたが、その後、海外に行ったり、多くの外国人と付き合ってみて、「本当にそうだな」と感じました。

 欧米人に比べると、東洋人は愛情表現が地味なほうだと感じますが、同じ東洋人でも、日本人と韓国人では非常に違いを感じます。自分の考えや感情を表すのが苦手な日本人に対して、韓国人は意見や感情を言葉でも態度でもおおらかに表現します。

 韓流ドラマの人気がある理由の一つは、”情の濃さ”と言えるでしょう。ストーリーや登場人物の感情表現の細やかさ、深さ、激しさが見る者の心を捉えて離さないのです。

 やはり、愛情は「もっている」だけでは不十分なのです。表現しなければ相手には伝わりません。「伝わらない」ということは、相手から見れば無いのと同じです。愛情は言葉や態度で表現してこそ、相手に確実に伝えることができます。

 そういう意味で、私達も夫婦や親子でも、思いがはっきり伝わるように、愛情表現を努力したいものです。

言葉でしっかり愛情を伝えよう

 愛情表現の第一歩は”挨拶”です。

 夫は毎日、明るく元気に「おはよう」「行って来ます」「ただいま」「おやすみ」と言いましょう。妻も笑顔で「おはよう」「行ってらっしゃい」「お帰りなさい」「おやすみなさい」と言いましょう。挨拶の一言でも、一日がスッキリしてきます。

 そのうえで、日常会話の中で、勇気を出して愛情を込めた表現をしてみましょう。

 夫は、「ありがとう」「その服、よく似合うね」「今日のおかず、すごく美味しいよ」「さすが、お母さんだね」「ママといると、なんだかホッとするよ」といった言葉をかけてあげましょう。そうすると、妻の顔にパッと花が咲きます。

 また、妻は、「お疲れ様」「今、お茶入れますね」「ありがとう、助かるわ」「パパって、すごーい」「お父さん、だーい好き」「パパがいないと淋しいわ」といった言葉をかけて見て下さい。きっと、夫の心に愛の火がつくでしょう。

 もし、口で言うのが苦手なら、手紙やメモ書きにして渡しましょう。誕生日や結婚記念日、あるいは、父の日や母の日に贈るのは物だけでなく、そこに必ずカードや手紙を一枚添えましょう。夫からの手紙に、「苦労をかけて済まないね」「君に感謝している」「君をもっと幸せにしてあげたい」「愛しているよ」といったひと言があれば、妻はどんなに嬉しいでしょうか。

 また、妻からの手紙に、「至らない妻でごめんなさい」「いつも感謝しています」「あなたを尊敬しています」「愛しています」といったひと言があれば、夫は日頃の苦労も忘れてしまうことでしょう。

 一生をかけて、夫婦がお互いに愛情表現の達人になれるよう努力をすれば、間違いなく理想の夫婦に近づくことができるに違いありません。