青少年事情と教育を考える 44
利他的な心が支える子育て

ナビゲーター:中田 孝誠

 今回は子供の発達、親子関係について考えさせる2冊の本を紹介します。
 どちらも数年前に出版されたものですが、子供の成長が大人の利他的な心によって支えられていること、そしてそのために重要な家族の価値を教えてくれます。

 一つは、『まねが育むヒトの心』(明和政子著、岩波ジュニア新書)です。著者は京都大学教授です。脳科学の研究も含めて、チンパンジーなど他の動物と違う人間の子育ての不思議が書かれています。

 明和教授によると、ヒトは生後1年に満たないうちから大人の利他的な行動に敏感に反応し、信頼できる人が誰か分かるようになります。一方、多くの大人は表情やしぐさ、声などで共感の感情を持って赤ちゃんに積極的に関わろうとします。
 他人の喜びやうれしさに共感する能力を持っているのはヒトのみで、ヒトの子育てはヒト特有の利他的な心に支えられてきたというのです。だからこそ、大家族や地域社会のつながりが子供にとっても大切だというわけです。

 もう一つは、山極寿一著『「サル化」する人間社会』(集英社インターナショナル)。著者は現在、京都大学総長で、霊長類研究者として有名です。

 本の中で山極氏は、人間の家族は非常に不思議な集団で、例えば人間特有の同情心、見返りを求めない奉仕の心、コミュニケーションが家族の中で育てられるけれども、家族の崩壊が進んで社会が個人化すると、これらの力が育たなくなるのはもちろん、不平等が持ち込まれて平和が壊されると述べています。
 また、人類は共同の子育てと分かち合いの精神によって、家族とコミュニティの両立を成功させました。これは他の動物にはない非常に珍しいケースだということです。
 まさに「人間の人間たるゆえんは『家族』にある」というわけです。