愛の知恵袋 36
真の結婚は真の愛を育てる

(APTF『真の家庭』146号[12月]より)

関西心情教育研究所所長 林 信子

お見合い結婚のその後

 「真の家庭」10月号が発刊される少し前、9月半ばに、金沢市の某団体から招待されて、お見合いパーティーのお手伝いに出かけました。

 行きがけに車の中から、隣の県名を見て、8年前にその県から、お見合いパーティーに参加された一人の男性を思い出しました。あの人、幸せにお暮らしだろうか? 金沢市に着くと、私の顔をご存知の婦人がいらしたので早速お聞きしました。「えっ! あの大工さんですか? 知ってますよ。元気で大阪で親子3人暮らしておられます。 彼、明るくなって……」でした。私は本当に、ホッとしました。

 そのカップルが決まったのは、8年前の2002年7月でした。パーティー参加者募集中に、紹介者の方から電話が入りました。

 「30代の女性ですけど、少し脳に障害があって……そんな方でもいいですか?」

 「少しって、どの程度? はじめに自己紹介があるのよ。ご自身の名前と年齢位は言えるの?」「はい。それ位は練習してもらっておきます」「じゃあいらして頂いてもいいけど、お相手が必ず決まるから——などとはおっしゃらないでね」。

 「はい、お母さんは男性と会ったり、お話しできるだけでも、とおっしゃっています」

 当日、真っ赤なドレスの若々しく見える娘さんと、お母さんが現れました。

 スピーチで「わたしは、30歳、○○M子です。よろしく」。大きな声で言えました。付添席に座っていたお母さんは、思わず立ち上がって、拍手をしました。

「おかえり」と言ってくれるだけでいい

 テーブルチェンジが3回あって、フリートークが1時間、ラストタイムが近づいてきました。その母娘さんに付いていた付添人の女性が飛んできました。

 「先生、M子さんをお嫁さんにって、言ってくれる男性がいました!」

 「えっ! どこの人?」「F県からきている大工さん、大阪に来てもいい」って!

 男性側の付添人にも来てもらって確かめました。「独り暮らしで無口な大工さん、腕は確かで仕事は丁寧、朝早くからしっかり働いても、家に帰って『おかえり』と迎えてくれる人もいない。『おかえり』『行ってらっしゃい』だけ言ってもらったら満足だって」「えーっ! よかったねえ!」と言う私に、女性の付添人が泣き顔。「先生、でも今度はM子さんのお母さんが、大工さんなんか嫌だって!」

 「大工さんが嫌? じゃ何ならいいの?」

 「あのー、公務員の人がいいって」

 「公務員? お母さん何考えてんの! 直ぐお連れして! 私が話す!」

 お母さんが現れました。

 「お母さん、公務員ってどういうこと? 学校の先生や市役所勤めの男性が、仕事をやめて大阪まで来てくれると思っておられるのですか? 私はこの仕事を長い間やってきました。今日、お宅のお嬢さんのお相手が決まるとは思っていませんでしたよ。『何もしないでいい、〝行ってらっしゃい〟〝お帰りなさい〟だけでいい』と言ってくれる男性が他にいるとお思いですか? 今日のこのチャンスを逃したらきっと後悔しますよ。さあ、頭を深く下げて『役に立たない娘ですが、よろしく』とお願いなさいよ。大工さんに!」

 そして二人はカップルになり、壇上に上がった彼女は「今日は生まれてから一番うれしい日です」とちゃんと挨拶できました。

愛されると脳の働きもよくなる

 数カ月後、ある奉仕団体に招かれて講演に行ったら、彼女も来ていて、お茶とお菓子を運んでくれました。

 「今しあわせです」。彼女の言葉も表情もまったく正常で、とてもきれいで、茶菓子の置き方もていねいでした。

 愛されると女性は美しくなる。愛されると脳の働きもぐんぐんよくなる。愛とは偉大な力を持つ!と私は、しみじみそう思いました。