世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

バチカンと中国の「合意」。どうなる「地下教会」と台湾

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 9月24~30日を振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 米国、対中貿易関税2000億ドル分を対象に10%追加関税発動(24日)。日米首脳会談、貿易拡大交渉へ、自動車関税回避(26日)。ローマ法王、対中「暫定合意」で譲歩認める(26日)。北朝鮮・李容浩外相、国連一般討論演説で「一方的非核化はない」と発言(29日)。沖縄県知事選挙、玉城デニー候補当選(30日)、などです。

 今回は、カトリックの「総本山」・バチカンと中国との暫定合意について説明します。
 最も懸念されるのは、公認教会の2倍、3倍の信者数といわれる「地下教会」への中国政府の対応と、台湾の動向です。

 暫定合意は9月22日に実現しています。あくまでも暫定です。非公開の扱いですが、かつて中国の公認教会が独自に司教を任命し、法王が破門した7人を司教として認める内容となっていることは確実といわれています。

 バチカンは、無神論の立場をとる中国共産党の中国と1951年断交。57年に中国政府が公認する「中国天主教愛国会」が設立され、独自の司教を選んだのです。

 そんな両者の交渉が始まったのは2007年、法王ベネディクト16世が中国のカトリック信者への「手紙」を発表したことがきっかけになったといわれています。

 フランシスコ法王も13年の即位当時から、対中関係の改善に意欲的でした。16年から本格的に実務的に進めていき、「暫定合意」に至ったのです。

 しかしカトリック内部では不安と懸念が広がっています。
 中国では、全ての宗教は国務院宗教事務局の指導と監督を受けなければならず、共産党の介入を嫌う信者たちは政府に認められない「地下教会」に集まっているからです。

 公認のカトリック信者は約600万人、地下教会の信者は約2000万人といわれています。地下教会信者は「邪教の信者」と言われ、摘発の対象です。「公認」と「地下」の区別がなくなることにより、共産党による管理が強化される心配もあるのです。

 もう一つの懸念は台湾です。
 中国とバチカンとの接近は、バチカンと台湾との断交につながる可能性がありますし、中国にとっての利益は非常に大きいと言わなければなりません。
 9月26日、フランシスコ法王は、暫定合意において中国に「譲歩」した内容があることを認めています。

 今後の展開に注目しましょう。