家庭力アップ講座 10
第2章 心の姿勢⑤

(APTF『真の家庭』216号[10月]より)

家庭教育アドバイザー 多田 聡夫

(四)「信頼残高」の預け入れ

 多くの人は、家族で楽しい団欒(だんらん)の場を持ってみたいと思っていることでしょう。しかしなかなか、思うようにいかず、どうしたらよいのか悩んだり、あきらめてしまっている人もいらっしゃるのではないでしょうか。「どうしてあの人はこうなんだろうか?」「相手があの欠点を変えたらうまくいくのに」と考えてしまいます。これは、「相手を変える」という観点です。ここから私たちは、「自分が変わる」という観点に立つ必要があるのです。心が変われば行動が変わります。行動が変われば習慣が変わります。習慣が変われば人格が変わります。人格が変われば運命が変わるのです。ですから「相手を変える」という観点から、「自分が変わる」という観点になることが大切なのです。

 家族団欒の場を持つためには、家族の人間関係の中に、信頼関係が保たれている必要があります。信頼関係は、なかなか、あるようで、ない場合が多いのです。家族の中に信頼関係を築くためには、「自分から変わる」ということが欠かせません。

 ここで「自分から変わる」ことをよく理解し、実生活で応用する方法を紹介します。家族の人間関係の中に信頼関係を築く行為を、銀行や郵便局に、お金を預け入れる行為にたとえてみます。お金の代わりに信頼を、家族の一人ひとりの心に預け入れると考えてみるのです。そのように出来るようになることが、「自分から変わる」ということになるわけです。

 ですから、まず第1に、「預け入れ」と言うのは、積極的に行動して、信頼を築くような行為のことを言います。第2に、「引き出し」というのは、信頼を低める、感情的な行為のことを言います。

 家族との間に、高い信頼残高が保たれていれば、互いの授受作用は良好なものになり、ちょっとした間違いを犯したとしても信頼残高がそれを補ってくれるのです。

 では、「信頼残高の預け入れ」の具体的な実践について紹介します。ここでは、5項目の内容を紹介しますが、当然それ以外のものもあるわけです。それは、各家庭でいろいろと工夫し発見してみてもよいでしょう。

(1)親切にする
 第1は、親切にすることです。

 『絶えず気を配りながら小さな親切を続けることは、決して小さなことではない』のです。まず、「言葉」で親切にする事を考えてみましょう。

 「ありがとう(感謝の言葉)」「あなたは素晴らしい(ほめる)」「愛しています(愛の言葉)」「喜んで(自発的行動)」等があります。まず、親が素直に「ありがとう」と言えるならば、家庭の雰囲気も素直な環境が出来ることでしょう。親の方から「何かできることはある?」と聞いてみましょう。子供は、「腰が凝っているんだけれどもんでくれない?」とでも言ってきたら、「喜んで」と言って、子供の腰をもんであげてください。その時が、子供との会話のチャンスです。そして、親の方からも「こんどは、私の腰もお願いします」と言えば、また会話の良いチャンスです。また、親から子供に「大好きだ」「愛しているよ」と伝えてあげましょう。先日も、ある父親が、なかなか子供に「大好きだよ」と言えなくて、チャンスをうかがっていて、電話で話している時に、やっと息子に「大好きだよ」と言えたとの報告がありました。そしたら、息子が電話の向こうで黙ってしまったそうです。そして、泣いていたというのです。親も感動し、子供にも、親の愛情が伝わったのです。

 次に、「行動」で親切にすることを考えてみましょう。まずは、「相手の幸せのために役立ちたい」または、「相手の欠点は私が補う」などの姿勢が、私たちの行動を多く転換させてくれます。そして、家族で一緒に行動することを多くしてみましょう。一緒に映画を見に行き、感想を分かち合うとかです。

 また「皿洗いを一緒にする」「買い物に行く」「メモを弁当箱に入れる」「電話で気持ちを伝える」「感謝の気持ちを伝える」「抱擁」などがあります。

 子供は、親と一緒に何かをやることは嬉しいものです。子供に、「皿洗いしなさい」と言うよりも、「一緒に皿を洗おうか」と言ってみてください。誕生日の前後、一週間ぐらい、子供の誕生日にまつわるメールを送ってあげてください。「お父さんは、お前の応援団長だよ」とか、誕生日の前日には、「明日いよいよ、母さんも初めての20歳の娘を持つ時が来たよ。わくわくするね」などとメールを送ってあげるのです。これは時間があるからできるとかできないというのではなく、親の心に家族という「種」をしっかりと植えておけばできるのです。家族という、種を心に植え付けて生活していきましょう。(つづく)