家庭力アップ講座 7
2章 心の姿勢②

(APTF『真の家庭』210号[4月]より)

家庭教育アドバイザー 多田 聡夫

3月号から続く)

 コヴィー:「あなたの心は、裁く気持ちでいっぱいなのです。うわべだけの傾聴のテクニックを使って息子さんを改めさせることができると思いますか。あなたは自分の頭の中、自分の心の中から働きかけなければならないのですよ。そうすればやがては、無条件に息子さんを愛することができるようになるはずです。息子さんが態度を改めるまでその愛を出し惜しみせずにね」

 父は今までうわべのテクニックを使っているだけだった。誠心誠意、人の話を聞くために必要な力を与えてくれる自分の内面を変える努力をしていないことを悟った。

 父はやがて自分の内面が変わりはじめているのを感じた。息子に対する気持ちが、柔らかく、感受性に富んだものになっていった。その夜、父は息子に声をかけた。

 父:「私は今まで本当の意味でお前のことを理解していなかったということに気が付いたよ。今は、努力してみたいんだ。これからもその努力を続けるということを、お前に知ってほしいんだ」

 息子:「父さんは僕のことを絶対に理解できないね」

 そして、立ち上がってドアに向かった。父は、息子に向かって言った。

 父:「行く前に、一つだけ言いたいことがあるんだ。この前、友達の前で恥ずかしい思いをさせて悪かった。ごめんよ」。息子は振り向いた。

 息子:「どれだけ恥ずかしかったか、父さんには分からないよ」

 そして、息子の目には涙が溜まりはじめていた。

* * *

 後で、父親がこのことを伝えてくれたとき次のように説明した。

 父:「コヴィーさん、息子の目に涙が浮かんだのを見た瞬間、予想以上の衝撃が私を襲ったんです。息子が、傷つきやすく、感受性豊かであることを、今まで知りませんでした。そのとき初めて息子の話を本当に聞いてみたいと思ったんです」

 そして、父はその後実際に息子の話を聞くことになった。息子は徐々に打ち明け始め、深夜までその会話は続いた。妻が部屋に入ってきて「もう寝る時間ですよ」と催促しても、息子は「もっと話したいんだ。そうでしょう、父さん」と応え、二人はとうとう朝方までしゃべり続けた。

(スティーブン・R・コヴィー著『ファミリー 7つの習慣・家族実践編』より引用)

 いかがでしょうか? 葛藤していた親子が、見事に分かり合えるようになっていきましたが、おそらく何カ月も費やしてきたことでしょう。父と息子の両方が、想像を超える多くの葛藤をされたことでしょう。父親は、コヴィーさんの協力を得て、あきらめることなく最後まで、息子と向き合っていきました。

 転換されたポイントは、皆さんの家庭の状況によってちがうでしょう。それぞれの状況の中で、そのポイントを話し合ってみてください。

 ここでは、基本的なポイントを紹介します。

 第1は、「自覚」することです。親として、子供の気持ちを分かっていなかったことをしっかりと父親は自覚できたので、問題の多い親子関係から逃げないで子供と向き合うことができたのです。親子関係を正しく自覚できるかどうかが重要になってきます。

 第2は、「家族を信頼し愛することができた」ことです。父親は、「悪いことをしている息子」または「息子のことは全部、分かっている」と勝手に思い込んで、息子を信頼することができませんでした。さまざまな葛藤の中で、そのままの姿の息子と向き合い、受け入れたのです。

 そして、第3は、「自らを変えることができた」ことです。子供が問題だから子供の行動だけを変えたいと望んでいた父親は、子供を変えようとしたのであって、親自身が変わろうとしていなかったわけです。ところが、コヴィーさんからの的確なアドバイスもあって心から息子の気持ちを分かりたいと父親の心が転換されたのです。最初は、コヴィーさんから言われて、息子の行動を変えたいと願って、子供の話を聞こうとしたのですが、結果が出ないことですぐに落胆してしまったのです。父親は、もう一度自分自身の心を見つめながら、子供を変えようとするのではなく、父親自身が自分自身を変えようと自覚できるようになり転換されたのです。その父親の気持ちが、息子の心に伝わったのです。父親は自らを変えることにより、親の愛が息子に届いたことになるのです。

 第4は、子供の気持ちを理解していなかったことが自覚できたならば、何度も「謝ること」が大切ではないでしょうか。この父親も、素直に子供に向き合って謝ることができたのです。素直に謝ることのできる親を、子供は、下に見るのではなくかえって尊敬することができるようになります。子供の本性は、親を尊敬したい、信頼したいと願っているし、そのように努力しているのです。

 そんなに簡単にいくものではないのですが、繰り返し学習することによって、努力してあきらめることなく前向きに取り組むことができるようになることでしょう。また、家族同士の絆を深めることによって、心を軽くすることができますので、信頼と安心感という絆が大きな力となることでしょう。

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■親の感想を紹介します。

 「自分の決め付けや、子供に対する分かりたい思い、聞いてあげたい思いがなかったことも、講義の中のお父さんとダブりました。一進一退はあると思いますが、全く子供を分かっていないという自覚から出発できる気がします」

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 「子供の問題を抱えるなか、問題は親である私たち父母であり、特に母親である私が問題であるということを悟りました。先回の講義の後にもう一度その内容を読み返し、私たち父母が変わる必要があると思いました。そこで主人にもこの講義の内容の一部を伝え、自分は努力していこうと思っていると話しました。主人も何かを感じたようでした。夢をあきらめない、家族をあきらめない、自分をあきらめないことを心に刻み、頑張りたいと思います」