2023.09.04 17:00
コラム・週刊Blessed Life 279
人生をグレートにしたければこの本を読め!
新海 一朗
現代社会を生きる指針となる書籍を探し求めるとすれば、どんな本が思い浮かぶでしょうか。
キリスト教国家では圧倒的に『聖書』だと思いますが、日本ではどうでしょうか。
さまざまな仏教書籍が読まれていることは確かですが、聖書のように、一冊の本に集大成された形になっていないので、ちょっと的を絞りにくい難点があります。
それに比べると、儒教精神を説く孔子の『論語』は仏教書籍よりも広く読まれているように思われます。
神道は、その教理を聖書や論語のように一冊にまとめた本が見つかりにくく、『古事記』『日本書紀』などの歴史書から教えを学び取るようにアドバイスを受けたとしても、なかなか難しいものです。
そこで、現代社会を生きるための指針は何かないかと探してみると、幸運にも見つかりました。
それは二宮金次郎、すなわち二宮尊徳(1787~1856)の考えがまとめられたものとして残された一冊の本です。
極めて実践的に述べられている尊徳の思想をその師弟の福住正兄(1824~1892)がまとめた『二宮翁夜話』(1884年初版)という本であり、人生の生き方について非常に核心を突いた内容を述べている本です。
この本の影響がどれほど大きいでしょうか。
それは二宮尊徳の思想、実践哲学、経営理論、人生観、世界観、宇宙論など、多岐にわたる尊徳の教えに感銘を受けて活躍した人物たちを、明治以降の日本に続々と輩出したという事実から分かります。
高貴な精神と目標を掲げて人生を切り開いた人物であればあるほど、尊徳への畏敬の念が強く、『二宮翁夜話』を座右の銘とし、人生の相談書のようにむさぼり読んでいるのです。
二宮尊徳のような人物が幕末の世に出たということ、そして少なからず尊徳の思想に触れて新しい明日の日本を築こうと夢見ていた若者たちに影響を与えたということは、明治維新以降の現代日本の建設に大いにプラスに働いたと見る以外にありません。
そこには、討幕派、佐幕派の別を超えた二宮尊徳の影響力が燦然(さんぜん)たる光を放っています。いわば、一つの普遍性、真理性といったものを彼の思想は発光させているのです。
渋沢栄一は、「私は、あくまでも尊徳先生の残された四ヵ条の美徳(至誠、勤労、分度、推譲)の励行を期せんことを願うのである」(致知出版社のウェブサイトより)と言い、その教えに従って、殖産興業の経済繁栄に努め、欧米に肩を並べる日本経済の建設に汗水流したと語っています。
松下幸之助は、「悲観的に見ますと、心がしぼみ絶望へと通じてしまいます。しかし、楽観的に見るなら、心が躍動し、さまざまな知恵や才覚がわいてくる、ということを尊徳翁は言いたかったのでしょう。ぼくもその通りだと思います」(『PHP』昭和60年12月号)と語り、どんな経営的な苦境の中でも「楽天的に心が躍動する」尊徳翁のマジックに助けられて、あらゆる困難を乗り越えることができたと言っているのです。
日本の政治経済の分野で活躍したほとんどの人々は、『二宮翁夜話』を必読の書として肌身離さずに愛読していました。
神道、仏教、儒教の三大宗教の教えの精髄を実践するという大志で人生を突き進んだ二宮尊徳は、見方を変えれば、偉大な実践的宗教家であったといえます。
ピーター・ドラッカーは、「日本には二宮尊徳がいる、私は日本に対して教えることは何もない」と言い、いかなる経営思想を外国から日本は学ぼうとしているのか、日本には二宮尊徳がいるではないかと言い放ったのです。