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コラム・週刊Blessed Life 272
NATOの東方拡大を恐れるロシア

新海 一朗

 NATO(北大西洋条約機構)は、もともと米ソ冷戦時代のさなか、19494月にワシントンD.C.で調印された集団防衛機構です。
 北米2カ国と欧州の国家によって成立し、米ソ冷戦の終結後、東ヨーロッパからの加盟国を増やし、2023年4月現在は31カ国が加盟しています。

 NATOに対して、ソ連を盟主とした東ヨーロッパ諸国が1955年に結成したのが、ワルシャワ条約機構です。
 軍事的対立軸がこの二つの機構によって明確であったのが、米ソ冷戦の時代の特徴でした。
 ソ連の崩壊で、ワルシャワ条約機構は19917月1日に正式解散となります。しかしNATOはその後も存続して現在に至ります。

 ウクライナ戦争の背後には、NATOの東方拡大(ウクライナの加盟まで含む)を恐れるロシアの欧米不信があります。
 ウクライナに欧米のミサイルが設置される状態となれば、ロシアはいつ国家としての消滅的な危機状況を迎えるか分からないという強いトラウマ(ナポレオンやヒトラーと戦った心的外傷)から逃れることができません。

 そうなる前に、ゼレンスキー政権を排除し、ウクライナに親ロシアの政権を打ち立て、NATOに加盟しない中立国をつくろうとした動機が、侵攻に隠されていました。
 もちろん、いかなる理由があったにせよ、他国への侵略は絶対に許されるものではありません。
 その他いろいろな要因はありますが、NATOという軍事機構の存在を中心に考えてみると、ロシア側の心理分析は大体以上のようなものでしょう。

 戦闘の続くウクライナ戦争のさなか、トルコのエルドアン大統領は712日、スウェーデンのNATO加盟を承認する見通しを示し、トルコ議会において、10月以降に承認される運びとなるだろうと語りました。

 フィンランドは、すでに4月にNATO加盟を果たしていますから、トルコがスウェーデンの加盟承認となれば、秋以降、正式なスウェーデンの加盟が決定されます。
 これで、バルト海からロシア艦隊は締め出される状況が予想されます。
 フィンランドとスウェーデン、ラトビア、リトアニア、エストニア、ポーランドがロシアに大きな圧力を加える体制が出来上がるからです。

 ウクライナ戦争によってロシアは国際的なイメージを落とし、フィンランド、スウェーデンまでも、NATO加盟に走らせるという失態を招く結果となりました。
 結局、中立的に行動していたトルコまでスウェーデン加盟の承認に至ったのです。いわば、NATOの北方拡大が完成した形となりました。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、712日、NATO首脳会議において記者会見した際、「ウクライナは、領土を政治的地位や『紛争の凍結』と交換するつもりはない」と述べました。
 その意味は、ウクライナがNATOに加盟する条件と引き換えに、非占領地域を放棄する形で、ロシアとの停戦を実現するなど、そういう圧力には一切応じないという言明です。

 結局、ウクライナの将来のNATO加盟の問題と領土の奪還は全く別問題であるとしました。
 そして「戦争が終わり次第、ウクライナはNATOに招待され、加盟国になると確信している」と表明しました。
 戦争の勝利によって、領土は全て回復する、そしてNATOに加盟するという満点解答をゼレンスキーは示しました。

 このゼレンスキーの強い思いに対して、ロシアはどう動くのか、長引くウクライナ戦争は山場を迎えつつあります。