家庭力アップ講座 4
第1章 序論③

(APTF『真の家庭』205号[11月]より)

家庭教育アドバイザー 多田 聡夫

(4)子供の気持ちを感じ取る感性を養う
 今の親の世代は大抵20世紀に生まれ、20世紀の環境を生き抜く感性をもって青春時代を過ごしてきましたが、今の子供たちは21世紀の環境を生き抜いていくための感性を神様から与えられて生まれてきていると感じます。

 20世紀の感性と21世紀の感性はずいぶん違います。20世紀の感性で21世紀に生きる子供たちと接しても、子供が「育つ」環境を整えることは、少し違うように思います。

 心の教育とは、感性を養うことです。感性は、体験の中で学んでいきます。家庭生活での家族関係や、自然の中でさまざまな自然に触れることで多くのことを感じていくことができます。子供が親の手伝いをしたときに親が喜んで感謝してくれる姿を見て、親の情を感じて子供は人の為に生きることをしたいと心から感じるでしょう。

 感性が養われていけば、さまざまなものに対する理解力や判断力を育てていくようになるのです。ゲームをしていても、現実のものか架空のものかを判断できるようになるわけです。そして感性が養われていけば、子供たちがたくましく生きる大きな力となるのです。

 子供の愛は、教えて育つものではありません。子供のために献身的に真の愛の一生を生きていく父母の姿を見て体得し、悟るのです。成長して分別がつくようになって、子供の愛が完成するのです。それは、父母のために永遠にすべてを捧げる人生の基準です。父母が言う前に父母の心を読み取り、子女の道理を果たす人生の姿となります。

 親の感性が豊かだと、子供も感性が豊かになってきます。子供の気持ちを感じ取った親の言動を見れば、子供は「お父さん、お母さんは僕のことをよく分かっていてくれている」と実感できるようになります。

 世の中の8割の子供たちが、「親から理解されていない」と感じているそうです。私たちは、「授受作用」をうまくできていないことが多いのです。忙しさのあまり、子供と向き合う時間が少ないのではないでしょうか。問題は、子供の気持ちを親が感じ取っていないことです。

 「親の愛情が子供に届いていない」「親の愛が子供に届くには、子供の気持ちを分かってあげること」という話を、30人の中高生にしたことがありました。するとそのうちの29人が「僕も家庭を大事にしないといけないと感じました。家でもっと自分のことを話すようにしたい」「今日は、失敗しました。母親しか来てもらえなかったからです。この話をぜひ父親にも聞いてもらいたいです」と話していました。一人だけ高校2年の男性が「僕の親は年を取っているので、親に子供に対する態度を変えてほしいとは言えません。だから親に『変われ』と言う前に、僕が変わります」と語っていました。

 子供の感性を伸ばすために、自然に接することをおすすめします。自然の中にある為に生き合う美しさや、そこから受ける感動を分かち合って親子で共有してみてください。「父さんは、あの川を見て高いところから低い所へ流れる水のように、低いところのために生きる生き方をしたね」というように親の気持ちを心を開いて話してみるのです。

 そして、親は子供の行動を変えさせようとする前に、子供の行動の背後の気持ちを感じてあげてください。それができるようになれば、次にうれしいのか悲しいのか、喜んでいるのか怒っているのか、そんな親の気持ちを率直に子供に伝えるようにしてみてください。言葉で表現するのです。すると子供は「こんなとき、お父さんはこんなふうに感じるんだ」と、自然に親の気持ちを感じ取れるようになっていくのです。

 その逆もあります。例えば、お母さんがお父さんの悪口を言っていたら、子供は「お父さんとお母さんは結婚したくなかったんだ」と思い、心が傷ついてしまいます。子供の前で、不平不満を言ったり、批判したりするのは極力控えるようにしましょう。

(5)自分が優先しているものは何か
 日常生活の中で、何気なく暮らして過ごしている家族関係の中にいろいろと学んでいくことがあります。子供は親の言葉や行動を見ながら親の動機を繊細に感じ取っていきます。

 ではここで、自分が何を優先し、何を価値視しているのか、再確認してみましょう。自分の心を見つめ整理してみると、自分の動機を理解していること、理解していないことが見えてきます。自分の心を見つめてみると、子供を見つめる余裕が出てきます。子供を見つめられないということは、自分を見つめていないことなんだと考えてみてください。

 これから以下の4つの質問に答えることによって、家族を見つめている自分の心をもう一度振り返ってみましょう。

1.家族の問題点を箇条書きに挙げてみてください。いくつでも結構です。1分ぐらいでお願いします。

2.家族が、変わってほしいと思う点を箇条書きにしてみてください。1分ぐらいでお願いします。

3.次になぜ、そのように望んでいるのか理由を書いてください。1分ぐらいでお願いします。

4.では、これから3つの例題を紹介します。これらは、比較的小さな子供の例題ですが、当時のことを思いだしたりしながら自分のこととしてとらえながら、心から素直に読んでみてください。

①せっかくきれいにした台所をちらかす子を怒るあなた。子供の楽しく遊んでいる気持ちより、台所をきれいに保ちたいあなたの気持ちを優先していませんか?

②塾に行こうとしない子に「行きなさい」と言うあなた。子供が勉強できることで、自分がよい親であると人から認められたいと思っていませんか?

③おかずを残す子に「全部、食べなさい」と言うあなた。子供の気持ちや健康よりも、自分が料理を作った気持ちや労力を、認めてほしいという気持ちを、優先していませんか?

 皆さんどうでしたか? 3つの例題を聞きながら、子供の気持ちをしっかりと受け止めて聞くことができましたか? それとも親の事情を優先して聞いたのでしょうか? 子供は親の動機を見抜くチャンピオンだと感じます。本当の親になること、それは、子供の気持ちを感じ取って共感できることでしょう。内省のひとときを持って自分を振り返ってみましょう。