愛の知恵袋 168
「二世問題」について考える

(APTF『真の家庭』289号[202211月]より)

松本 雄司(家庭問題トータルカウンセラー)

親と子、世代間の信条伝達の難しさ

 最近、いわゆる二世問題がクローズアップされています。「親と子」という世代間の意思疎通と伝統の相続・継承というのはいつの世も簡単ではないようです。

 昔は最重要とされた家督の相続、職業の継承、地位の継承などにかかわる親子間の確執は、個人の権利と選択の自由を強調する民主主義時代になった今では、少なくなった気がします。

 しかし、信仰や思想や価値観といった内的な要素の親から子への伝達は、家族の絆や幸せと密接にかかわっているものなので、現代でも切実な課題になっています。

 現在、ある宗教団体の親と子の世代間の葛藤が、「二世問題」として取りざたされていますが、この問題の本質と解決をどう見出していけばよいのかを考えてみましょう。

貧困が及ぼす二世への影響

 さて、私もその宗教団体の会員親子から相談を受けたことがありますので、「二世問題」がその団体にとって大きな課題になっていることは間違いないでしょう。

 しかし、長年多くの方々の相談を受けてきた私の経験から言うと、実は、この問題はその団体だけの問題ではありません。

 程度の差はあるものの、「信仰の継承」をめぐる世代間の葛藤は大小のあらゆる教団の信者家庭において悩みの一つになっています。

 親に反発して葛藤を起こした二世たちに、「何が特に嫌だったのか」と訊くと、主に次のような三つの声が返ってきました。

①「家が貧乏で不自由を余儀なくされた」
②「親が仕事や活動に没頭し、自分にかまってくれなかった」
③「親の信じる価値観を押し付けようとされた」

 第1の「貧困問題」に関しては、親としては「不自由な思いをさせて済まなかった」と率直に詫びるしかないでしょう。そして、その親の属する教団には、信徒が困窮するほどの過度な献金を募るというやり方は見直してもらいたいと思います。

 また、愛と慈悲を説くのが宗教ならば、困窮した家庭を放置せず教団として支援し、信者同士でも助け合うという伝統を築いてほしいと思います。

 ただ、貧困が親子葛藤の根本原因かというと、そうとは言い切れません。家庭が貧困でも親子に信頼関係があり、本人が納得して親と同じ信仰の道を選んでいる二世のほうが多いからです。葛藤の真の原因はもっと内的な面にありそうです。

二世が喜んで伝統を継承してくれるようになるには

 第2と第3の問題は密接に関連しています。

 ある仏教系の団体の信者から、「自分は広宣流布に身を捧げてきました。しかし、子供は信心を持ってくれず、強く叱ったら親子喧嘩になって家を出てしまい、本当に困っています」という悩みを聞いたことがあります。

 また、無神論の革新系の団体や活動家の家庭でも、実は、二世問題は深刻なようなのです。

 ある党員の家庭では、親は「日本の革命のために」とお金もほとんど活動のためにつぎ込み、機関紙拡大・オルグ活動・選挙活動に奔走してきた。しかし、子供が大きくなったとき、「革命を…」と言ったら「今どき、ナンセンス!」と激論になり、親とは全く違う道に行ってしまった…という話を聞いたこともあります。

 強固な思想をもった人の家庭ほど、親子間の葛藤が生じる可能性があります。

 信仰も思想も職業も、最終的には各人が自分の本心で選択していくものです。

 「自分の生き方を子供にも継承してほしい」と思った時、それを上から子供に押し付けても無理です。双方に葛藤が起こるだけでしょう。

 その前に「子供が心から尊敬でき、慕わしいと思う親になっていたか?」ということが問題なのです。

 子供には、親がどんな立派な思想や役職をもっていようが関係ないのです。

 ただ一つ、自分のためにどれだけ時間を割いてくれたか、どれだけ関心を持ってくれたか、どれだけ愛してくれたか…それだけが親に対する評価基準になるのです。

 親としては、「その点で自分に間違いはなかったか…」と心から反省し、子供たちとの信頼と情の関係を取り戻すことに全力を注ぐしかありません。

 「愛情が足りなかった…」と感じたなら、今からでも誠心誠意、愛情を注がねばなりません。

 そうした時に、子供は自然に「お父さんのように生きたい。お母さんのようになりたい。その願いに応えたい」という心境になってくれるのではないでしょうか。

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