2018.06.08 22:00
どうなる米朝首脳会談、
朝鮮半島の今後の行方は?【前編】
ナビゲーター:木下 義昭
トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との初の米朝首脳会談が6月12日、シンガポールで予定されています。
この会談を巡っては、紆余曲折がありました。もちろん、まだまだ予断を許しません。
今回は、この首脳会談が予定どおり行われた場合でも、そうでない場合でも、忘れてはならないポイントについてお話しします。
まず最初に、「紆余曲折」について。表面的に見ると、「紆余曲折」と映りますが、これは外交交渉においては普通のこと、当然のことです。
外交には、「3段階」があります。
①説得:話し合いを続ける。
②威嚇:経済的、軍事的圧力で対応する。
③妥協:説得、威嚇の上で最終的にまとめ上げる。
今回の米国・北朝鮮の一連の動きを見て、一般的には「ハラハラ、ドキドキ~」という思いをもつでしょうが、両首脳においては「想定内のこと」でしょう。
両者に共通していることは、「威嚇」です。二人とも威嚇のプロだということです。これまでの代表的な「威嚇発言」を振り返ってみましょう。
<トランプ大統領>
(金委員長について)「小さなロケットマン」「彼は病んだ子犬だ」「生意気な若者」「いくじなし」「残酷な独裁者」「チビでデブ」
<金委員長>
(トランプ大統領について)「トランプは、明らかに政治家ではなく、火遊びを好むならず者、ゴロツキだ」「おいぼれ!」
普通の常識からみれば両者とも非人間的であり、非人格者に見えます。しかし、両者は「自国の利益、自己の立場を守るための当然の行為」と、割り切っているのです。
そもそも、政治家に「人格を求めることは無理」という認識が、特に日本人には希薄です。過去の著名人の発言を見てみましょう。
①ロナルド・レーガン米国第40代大統領:「ソ連は悪の帝国!」
②福澤諭吉:「政治は悪さ加減の選択である」
③チャーチル英国元首相:「期待される政治家とは、明日何が起きるかを、国民に予告できなくてはならない。そして、次の日、なぜ自分の予言どおりにならなかったかを国民に納得させる能力がなくてはならない」
④中曽根康弘元首相(第71・72・73代):「大局さえ見失わなければ大いに妥協してよい」(注釈:若い頃、徳富蘇峰に教わった中曽根元首相の人生訓)
さてここで、中国の戦略について見てまいりましょう。
中朝首脳会談が3月26日に北京で、5月7~8日に大連で行われました。
習近平国家主席の思惑は、以下のとおりです。
・「北朝鮮カード」を手元に取り戻すことで、貿易などで対立するアメリカをけん制し、今後の外交交渉などを有利に運びたい。
・北朝鮮に米国寄りにならないようにくぎを刺す。北朝鮮を「緩衝地帯」として、米国の「軍事的脅威」と隣り合わせにさせない。
また、金正恩委員長には、中国・習主席に従順さを見せながら、トランプ大統領に揺さ振りをかける狙いがあります。
金正恩委員長の中国に頼る姿勢を見せざるを得ない、中国と北朝鮮の関係に対する基本的姿勢は、次の発言(3月26日、北京での歓迎夕食会の挨拶)に表れています。
「初の外国訪問が中国の首都となったのは、当然のこと。朝中親善を、代を継いで受け継ぐのは私の崇高な義務だ」
中国と北朝鮮の基本的関係を確認しましょう。
中朝友好協力相互援助条約(1961年に中華人民共和国と北朝鮮との間で結ばれた条約)の第二条に明確に示されています。
(参戦条項)第二条 両締約国は,共同で全ての措置を執り、いずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国または同盟国家群から武力攻撃を受けて、それによって戦争状態に陥ったときは他方の締約国は、直ちに全力を挙げて軍事上その他の援助を与える。
これは20年ごとに自動的に更新されていくもので、2001年に更新されています。(続く)