2018.06.05 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
第10回 「米朝」の裏で進む、中国の南シナ海支配
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
5月28日から6月2日を振り返ります。
主な出来事を挙げてみます。
北朝鮮、金英哲党副委員長が訪米(5月30日)。大阪地検、森友文書・佐川宣寿氏ら不起訴(31日)。金正恩委員長、ロシアのラブロフ外相と平壌で会談(31日)。日本、司法取引を開始(6月1日)。トランプ大統領、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長との史上初の米朝首脳会談を12日に行うと表明(1日)。アジア安保会議(英国際戦略研究所主催)、シンガポールで開催(1日)、などです。
今回はアジア安保会議(英国際戦略研究所主催)を扱います。「シャングリラ会合」ともいわれるこの会議は、毎年恒例のイベントで注目度の高いものです。アジア太平洋地域の国防大臣などが多数参加する国際会議で、この数年は北朝鮮の核・ミサイル問題、特に中国の南シナ海での人工島造成と軍地基地化について論じられてきました。
今回は特に、米中両国が南シナ海問題を巡って激しい応酬を繰り広げました。際立ったのは、米国のマティス国防長官の発言です。「中国による(南シナ海の)スプラトリー(南沙)諸島の軍事化は、習近平国家主席の約束に反している」と批判し、演説後の質疑で「2カ月前なら協力について話そうとしたかもしれない」と述べたのです。
5月以降、スプラトリー諸島に中国による対艦・対空ミサイルの配備が初めて確認され、パラセル(西沙)諸島・ウッディ島で戦略爆撃機H6Kの離着陸訓練が実施されたことも判明しました。「防衛目的」(習近平氏の約束)の限度を超える中国軍の動きがあったのです。
そのため5月23日には、米国国防総省が米海軍主催の「環太平洋合同演習(リムパック)」への中国の招待取り消しを発表しました。恒例行事であっただけに、突然の対応に中国は強く反発しています。
南シナ海の軍事化に対する中国の狙いは、パラセル諸島・ウッディ島、スプラトリー諸島・ファイアリークロス礁(人工島化が進められている)、そしてスカボロー礁(フィリピンと領有権を争っている)の三点の軍事拠点を結ぶ「三角形」をつくることだといわれています。その空間の上空に防空識別圏を設定し、他国の航空機(特に米空軍機など)の侵入を阻止しようとしているのです。
中国は、台湾の制圧、中国海軍、特に潜水艦が西太平洋に自由に出ていく航路の確保を計画しています。米朝の動きを尻目に、覇権拡大に注力しているのです。