2022.06.21 22:00
歴史と世界の中の日本人
第1回 鈴木大拙
東洋と西洋の宗教をつないだ日本人
歴史の中で世界を舞台に輝きを放って生きた日本人が数多くいます。知られざる彼らの足跡を学ぶと、日本人の底力が見えてくる!
「歴史と世界の中の日本人」を毎週火曜日配信(予定)でお届けします。
今回から、先人たちの異文化体験の足跡や、世界を舞台に活躍した日本の人々にフォーカスしながら、日本人の底力について探求してみたい。
連載タイトルは、「歴史と世界の中の日本人」。
歴史の流れを縦糸とすれば、世界とのつながりは横糸に例えることができる。縦糸と横糸を編み込みながら、これからの世界で主役となって生きる日本人像を彫り出していこうというのが連載の狙いである。
第1回では、鈴木大拙(すずき・だいせつ/1870~1966)を取り上げたい。
日本人の手によって直接英文で著され、西洋にも東洋にも大きな影響を与えた書物として、内村鑑三の『代表的日本人』、新渡戸稲造の『武士道』、そして岡倉天心の『茶の本』の3冊がよく知られているが、鈴木大拙による英文の名著『禅と日本文化』を忘れてはならない。欧米世界の禅ブームの一翼を担った代表作である。
大拙は英語に極めて堪能であり、米国で11年間にわたって仏典の英訳の編集の作業にも従事している。大拙は東洋の仏教と西洋のキリスト教に橋を架けた希代の仏教学者であった。大拙の英文で書かれた著作は20冊以上になる。
大拙はキリスト教を背景とする欧米人に対して、彼らに通用する言葉をもって仏教を提示した。卓越した英語力によるだけでなく、大拙の心の中ではキリスト教と仏教がつながっていたといわれるほど、キリスト教に対する深い造詣を有していたからである。
晩年の大拙はサインを頼まれると、「To do good is my religion」とか「The world is my home」と書いたという。
善を行うことが自分の宗教であり、世界は自分の家であるという境地は、東洋と西洋の宗教・文化に橋を架け得た大拙の、全人類的な霊性と平和世界創出の感性を示している。
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次回は、「国境を超えた愛に献身した女性たち」をお届けします。