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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

波乱の米州首脳会議、背景に中国の浸透

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、66日から12日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 駐日大使に尹徳敏(ユン・ドンミン)氏、韓国発表(7日)。カンボジアに中国海軍施設? 米紙ワシントンポスト(8日)。金正恩(キム・ジョンウン)総書記出席、党中央委員会総会が開幕(8日)。米州首脳会議が開幕(8日~10日)。露大統領、「領土奪還はわれわれの任務」と発言(9日)。北朝鮮、外相に米国通の崔善姫(チェ・ソンヒ)氏を任命(11日)、などです。

 米州首脳会議(メンバー国35カ国)が8日、米国ロサンゼルスで開幕し910日の両日討論が行われて10日に閉幕しました。同会議は今回で9回目の開催となりますが、米国のリーダーシップが問われる出来事が起きました。

 キューバなどを招待しなかった米国の対応に反発して、メンバー全35カ国のうち8カ国の首脳が会議をボイコットする事態となったのです。
 米政府が示した方針は、「独裁者は招かない」というものでした。

 米州首脳会議とは、米国の首都ワシントンD.C.に本部を置く米州機構(OAS)参加国のリーダーが集まる国際会議で、1994年から3年ごとをめどに開催してきました。

 OASは、19484月に調印されたボゴタ憲章(米州機構憲章)に基づいて、195112月に発足した国際機関であり、目的は米州の国々の平和と安全保障・紛争の平和解決・加盟諸国の相互躍進です。

Arek SochaによるPixabayからの画像

 今回の会議の目的は、メキシコ国境を通じて流入する不法移民への対策や新型コロナ対策、さらにウクライナ戦争に伴う食料不足対策などを議論しようとするものでしたが、メキシコの大統領ロペスオブラドール氏が6日、欠席を表明。理由は、キューバやベネズエラ、ニカラグアを招待しないとする米政府の方針を受け入れられないというものでした。

 米政府が招待しなかった国はキューバ、ニカラグア、ベネズエラ(いずれも左派政権)。ボイコットした国はメキシコ、ホンジュラス、ボリビア、セントビンセント及びグレナディーン諸島、グレナダ、セントクリストファー・ネービスです。エルサルバドル、グアテマラも欠席しています。

 会議は10日、中南米からの移民に関する協力策をまとめた「ロサンゼルス宣言」を発表し閉幕。米国は中南米諸国との新たな経済連携協議の開始や気候変動対策での支援を打ち出しています。

 波乱の震源にあるのはやはり中国です。
 米政府は、「米国の裏庭」といわれる中南米での中国の影響力を抑止する必要があります。

 近年では、エルサルバドルが2018年に台湾と断交し中国と国交を樹立。中国は翌2019年にスポーツ競技場や図書館といったインフラ開発に5億ドルを投じる方針を表明しています。さらにニカラグアが2021年、台湾と断交し中国と国交を樹立。中国の浸透を強めています。

 ところで、反発しているロペスオブラドール氏は、かねてからOASを「米国が中南米に介入する道具」と見なしてきた人物でした。

 2011年、中南米諸国はOASに対抗する形でラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)を設立しています。そして昨年9月、ロペスオブラドール氏がメキシコ市でCELAC首脳会合を開催した際、招待状には「(開催目的は)OASを弱める」と記されていたのです。

 ロペスオブラドール氏は会合で、CELACは欧州連合のような経済共同体を目指すべきだと宣言し、中国の習近平国家主席は「最大限の支援」を約束したのです。

 「波乱」の開催となった米州首脳会議ですが、米国の影響力低下が表面化したことは確かなのです。