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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

米中首脳会談~習政権、対露軌道修正か

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、314日から20日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。

 ウクライナのゼレンスキー大統領が米議会演説(16日)。北朝鮮が飛翔体発射も失敗と韓国軍発表(16日)。米中首脳会談(18日)。尹錫悦(ユン・ソンニョル)氏、大統領執務室の移転を発表(20日)、などです。

 今回は、米中首脳会談を取り上げます。
 318日、テレビ電話による米中首脳会談が行われました。
 焦点となったのは、ロシアによるウクライナ危機への対応でした。両首脳による会談は昨年(2021年)11月のオンライン形式の会談以来となり、ロシアのウクライナ侵攻後初めてで、約2時間にわたりました。

 バイデン米大統領は、侵攻を続けるロシアに対して中国が経済的・軍事的な支援を提供しないように求めました。
 会談に先立つ17日の記者会見でブリンケン米国務長官は、「バイデン大統領は習近平国家主席に、ロシアの侵攻を支援する行動への責任は中国が負うことを明確に伝える」と述べ、「米国は中国に代償を科すことをためらわない」とまで語っていました。

 中国国営新華社通信によれば、習氏は会談で、「ウクライナ危機は私たちが見たくないものだ。われわれは世界平和への努力をしなければならない」と呼びかけ、「国家の関係が武力行使まで進んではならず、衝突や対抗は誰の利益にもならないことを改めて示している」と語ったと報じました。

 さらに「われわれは中米関係を正しい軌道に沿って発展させるだけでなく、果たすべき国際的責任を担い、世界の平和と平穏のために努力しなければならない」「全方位、無差別の制裁で被害を受けるのは一般庶民だ」と述べて対ロ制裁に反対しました。しかし、ロシアの軍事侵攻を「非難」する言及はありませんでした。

 今回の会談は、中国側の要請に米国が応えた形です。
 背景には、ウクライナ情勢があります。ロシアは当初狙った短期決戦に明らかに失敗しました。首都キエフなどへの侵攻が停滞しているとの見方が広がり、ウクライナ民間人の人道的危機が差し迫ったものとなってきています。
 習近平政権は、米側が中国に対して何を求めているのか真意を探りたい思惑があったのです。

 習政権は今、危機感を持っています。ウクライナ侵攻前、中国は米国との対立の長期化を視野に、ロシアと「背中合わせの戦略的連携」(習近平国家主席)を深めてきました。
 米国を後ろ盾とする台湾への統一攻勢を強める習政権にとって、中露連携で米国に二正面対応を余儀なくさせられれば対中圧力を分散できるとの読みがあったのです。

 しかし、その戦略に狂いが生じ始めています。
 ロシアは国際法を無視してウクライナに侵攻し、国際社会の非難と強力な制裁を招きました。さらに電撃作戦に失敗したロシアは今後、国力を弱体化させるのは確実であり、ロシアを擁護すれば、国際社会での中国の評判を落とすことになり、米中覇権争いの行方にも影響しかねない状況になりつつあるのです。

 習政権はロシアの侵攻を批判していません。制裁には反対の立場です。
 しかし習氏は、8日の仏独とのオンライン首脳会談で、「欧州大陸で戦火が再燃したことを痛惜している。当事国の必要に応じて、国際社会と共に積極的な役割を果たしたい」と語っていました。

 米国は今、強く出ています。背景には欧州の存在もあります。
 政治専門サイトポリティコは18日、EU(欧州連合)の指導者らが、中国がロシアに軍事支援を検討している確かな証拠を持っていると報じました。

 習政権は国益を最優先し、ロシアに寄り添ってきた従来の姿勢の修正を図り始めたと言えるでしょう。その表れとしての米中首脳会談だったのです。