2022.03.11 17:00
青少年事情と教育を考える 192
民法改正は子供の福祉、親子関係を守れるのか
ナビゲーター:中田 孝誠
先月(2月)1日、法務省の専門家部会から、民法の改正案が公表されました。
内容は親子法制、つまり親子関係に関する部分の改正案です。
改正点の一つは、児童虐待の深刻化により注目を集めた「懲戒権」を削除するというものです。
親のしつけと体罰の違いがよく問題になりますが、削除の主旨は子供の心身の健全な発達に影響を及ぼさないようにするという意味だと考えられます。
改正点の二つ目は「嫡出推定」の見直しです。現在の法律では、女性が離婚後300日以内に生まれた子は前の夫の子と推定すると定められています。
「嫡出推定」は、法律で父子関係を確定することで子供が安心して育つことができる養育環境を安定させるという目的があります。
現実には父と子供の間に血縁関係がないこともあり得ますが、あくまで子供の心身の成長・福祉に配慮して、法律上の親子関係を重視します。
今回はこの規定を見直し、離婚後300日以内に生まれた子は、母親が再婚している場合には現在の夫の子供となります。
夫にDV(ドメスティック・バイオレンス/配偶者暴力)を受けて逃げた妻が、子供の父親が法的に夫になることを避けるために出生届を出さず、子供が無戸籍になることが問題になっています。
そうしたことへの対応として嫡出推定の見直しがなされたという意味があります。
三つ目は、離婚した女性は100日間は再婚できないと決められていた再婚禁止期間を廃止するというものです。
妊娠の前後に離婚や再婚をすると父子関係がはっきりしないということが起こり得るため、このような規定ができました。
また、離婚した夫の子供を妊娠している可能性があるときに再婚するのは倫理的に好ましくないという考え方も背景にあると指摘されています。
再婚禁止期間については、女性だけに規定されているというのは女性の結婚の権利を侵害している、DNA鑑定によって親子関係は明らかにできると主張する声も一部にありました。
確かに、今回の改正案には、無戸籍の子供と妻に対する救済策といった意味合いなど、やむを得ない事情もあります。
ただ、これまで民法は家族を保護し、子供の健全育成を保障するという意味で重要な役割を果たしてきました。
憲法に家族条項がない日本では、民法がその役割を果たしていると言ってもいいでしょう。
今回の改正案が成立した場合、親子の関係、子供の福祉はどうなるのか。
今の社会風潮は個人の権利を重視するあまり、これらが軽んじられる風潮さえあります。今後の影響が気になるところです。