2022.02.25 17:00
トムヤムクンを召し上がれ
バンコク生活記⑤
運と根性で臨んだ受験戦争!?
2013年から2014年まで『トゥデイズ・ワールド ジャパン』に掲載された懐かしのエッセー「トムヤムクンを召し上がれ バンコク生活記④」の一部を、特別にBlessed Lifeでお届けします!
筆者のアルンローッゴーソン真理子さんは、6500双のタイ日家庭です。
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今回、次女がバンコクでは名門と言われている公立の中高一貫校を受けたことで、タイの受験戦争の一端をかいま見ることができました。
まず模擬試験の結果発表に驚きました。ウェブサイトを開いて見ると、氏名、出身校、各教科の点数、総合点、そして順位も付けて公表されているのです。もう個人情報も何もあったもんじゃありません。しかし、日頃、学校では最下位まで名前が発表されているので、タイの子供たちの心臓は既に鍛えられているかもしれません。
娘が受験した学校の競争率は約4倍でした。1600人の受験生のほとんどは名門大学を目指し塾通いしている子供たちばかりです。模試の結果が良かったため、つい、次女を褒めちぎり、この調子なら合格するかもしれないと、私は親バカ状態になりました。
一方、次女も個人情報全開の模試の結果からクラスメートの名前を捜し出し、自分のほうが結果が良かったとニヤリとしているではないですか――。正直、これでいいのかと不安になりました。
いよいよ本試験当日、休暇を取り夫と共に次女に同行しました。学内にある仏像や銅像にワイ(合掌)をして祈り込む親子の姿に「仏教国タイ」を実感。日頃は時間に遅れて来るタイ人ですが、こういう日は素早く、やっぱり意気込みが違います。
1600人の受験生の名簿から名前を確認した後、次女は受験番号で分類された列に並んで待機し、受験会場へいざ出陣です。行列の中に消えていく娘の姿を目で追いながら、軍隊のように見えてきて悲しくなり、これは受験という名の戦争なんだと思いました。
試験中、校庭で待機していると職場の関係者に会いました。その人は、「塾に行かなければ勝ち目はない。だから、この日を迎えるまで塾の送り迎えを頑張った。学区外の受験生は不利。コネも寄付するお金もないから、息子の住民票を学区内に住んでいる親戚の住所に移したが、受験日の2年以上前から住所が変わっていなければだめだと分かった。2歳下の次男はもう住民票を移してある。小5から模試を受けさせ、本番に備えるよ」と熱弁を振るうのです。
タイは超学歴社会で、短大卒と大卒では給料に約2倍の差があると言われています。ですから、親が必死になるのも分かりますが、もともと能天気な私たち夫婦としては、さすがに複雑な気持ちになりました。
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さて、肝心の次女の結果ですが、最新兵器で攻略すべき、塾でしか教えない問題の数々に、長刀(なぎなた)と根性で挑んだような闘いは、サクラチルでした。サイトを見ると、次女と3点差でクラスメートが合格し、次女より10点低いのに学区内の友達は合格しているなど、やはり寄付金の力は大きいのだろうか、学区内の住民票が恨めしくなったりと、親子でため息をついたり、あきれた空気も漂ったりもしました。
タイは中高一貫校が主で、公私立を問わず受験は必須です。ただ、名門公立校は成績が良いだけではだめだと分かりました。娘には申し訳なかったですが、親子でいい社会勉強をしました。
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(この記事は、『トゥデイズ・ワールド ジャパン』2013年10月号に掲載されたものです)