コラム・週刊Blessed Life 200
カザフスタンで何が起きているのか

新海 一朗

 1月2日、2022年に入ってすぐさま、カザフスタンでLPG(液化石油ガス)の燃料価格が2倍に高騰したことを巡って激しいデモが起こりました。
 5日に非常事態宣言が出されるまで、民衆の猛烈な動きが反政府抗議デモへと拡大、民主化(真の政府改革)を求める民衆と警察が激しくぶつかりました。

 事態は流血の惨事へと至る展開を見せ、カザフスタンのこの突発的な騒擾(そうじょう)事件は一体どうなっているのだという注目と疑惑が世界中を駆け巡りました。民衆の激怒を見たナザルバエフ前大統領はキルギスタン(キルギス共和国)へ逃げ出す始末です。

 カザフスタンはソ連崩壊後30年近く続いた独裁体制国家として知られています。今回のデモ騒ぎで、長く続いた独裁が危うく崩壊に追い込まれるところまで、危機的な状況に陥りました。
 このことは、同じ独裁体制の二大国家、中国とロシアにとって直接的な脅威であることは言うまでもありません。

 国内に多くの問題を抱える中露の独裁政治にも火がつく恐れがあります。
 中国とロシアに挟まれたカザフスタン(中央アジアの中心的な場所)という地政学的な位置関係は、独裁三大国家の相互の微妙な政治力学を含んでおり、どうしても中国とロシアの二国間において水面下の綱引きが生じるのです。

 また、そういう動きを注視する米国や欧州の関心も決して小さなものではなく、新疆(シンチャン)ウイグル自治区と接するカザフスタン(イスラム教徒が約70%)の動向は、場合によっては、中国にとって非常にまずいことにもなりかねません。

 「一帯一路構想」に繰り込まれる重要国家というカザフスタンの位置付けが揺れ動くことになれば、ロシアの影響力の方が上回って中国の覇権に悪い影響が出てきます。そのことを中国は非常に恐れているのです。中露両国は、カザフスタンに対する自国の影響力を競い合う関係にあります。

 予期せぬ独裁崩壊の危機に直面した事態を食い止めたのはロシアの平和維持部隊の投入であり、1月6日、5000人の空挺部隊が現地入りしたことで一応の収拾を見ました。
 旧宗主国であるロシアに、カザフスタンのトカエフ大統領が軍隊の出動を要請し、助けを求めたのです。しかし、これで一件落着とはいかないことは明らかです。現在も状況はくすぶり続けています。今後、カザフスタンの政治状況は複雑化するでしょう。

 長期の独裁は、一部の権力者たちの動かない利権と独裁政権の専横による腐敗を生み出します。中国もロシアも、独裁政治を行う以上は同じ問題を抱えることになり、事実、それがまさに問題になっているのです。

 現在、習近平国家主席を支えてきた栗戦書(習近平政権で第10代全国人民代表大会常務委員長を務める政治家。中国共産党での党内序列は第3位)が行方不明になっていますが、深刻な内部の権力闘争があると香港メディアなどは伝えています。

 腐敗撲滅を遂行し、江沢民派を逮捕してきた習近平の側近中の側近である栗戦書自身が大きな腐敗問題を抱えていたとされ、かばい切れなくなった習近平が、一時、栗戦書を避難させているなどという風聞も聞かれます。

 いずれにせよ、独裁政治が長く続いたカザフスタンの今回のデモ事件は、独裁を強める中国やロシアにとって、気になって仕方ない問題であることは間違いありません。
 カザフスタンの問題が今後どうなるのか、世界は固唾(かたず)をのんで見守っています。