2021.12.28 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
文大統領、朴槿恵氏に特赦与える
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、12月20日から26日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
香港、立法会選挙で民主派全敗確定(20日)。駐北朝鮮中国大使が離任、後任の赴任時期は不明(22日)。韓国政府が朴槿恵前大統領の特赦を決定(24日)。ソ連崩壊から30年(25日)、などです。
韓国大統領選挙が2カ月半後に投開票を迎えます。
選挙は事実上、与党候補李在明・前京畿道知事と野党候補尹錫悦・前検事総長の一騎打です。世論調査では野党による政権交代を望む声が多いのですが、両候補とも多くのスキャンダルを抱え、結果は読めない状況となっています。
そんな中、12月24日、韓国政府は朴槿恵前大統領(69)の特赦を決定しました。
釈放は31日です。朴氏は収賄、特権乱用罪などで懲役22年の実刑で収監され、現在は入院中でした。2017年3月の逮捕以来、約4年9カ月が経過しました。
これまで肩や腰の持病で入院を繰り返してきたのです。最近は流動食以外食べられないほど歯の状態が悪化しており、精神的にも不安定な状態となっていたといいます。報道官は、「健康状態にも配慮した」と説明しています。
文氏は、新年の記者会見で「(朴氏は)過ちを否定し、(特赦は)受け入れ難い」と述べていたのですが、「特赦カード」を大統領選前に繰り出すものと見られていたのです。その狙いは、野党陣営の分裂です。
尹錫悦候補は2016年、特別検察官の捜査チーム長として朴氏捜査の陣頭指揮に当たっていました。そして逮捕、罷免まで持ち込んだ「功労者」だったのです。
朴氏特赦を契機に、朴氏の支持基盤である大邱、慶尚北道で、尹氏支持が後退する可能性が予想されます。
今回の特赦決定は、朴氏以外に盧武鉉政権で女性初の首相を務めた韓明淑氏、親北朝鮮系政党の元議員だった李石基氏を仮釈放しています。しかし李明博元大統領は外れました。
今回の特赦は、左派の要望に応えて、支持勢力の結集を図る狙いが透けて見えるのです。しかし与党の一部には朴氏特赦に対する反発もあり、総合的にはどのような影響を大統領選に及ぼすことになるのか不透明なところもあります。
韓国大統領の権力は大きいのです。大統領任期である次の5年を誰がどう過ごすのかで韓国の未来は決まります。
大統領権力は政府関係機関2万人近い幹部人事を左右し、その影響は企業の人事に及ぶといわれています。
日韓の懸案は、ある意味で放置された状態にあります。
新大統領の誕生は日本が対韓アプローチを再考するタイミングになることは確かです。その経過に投げ込まれた「特赦」という一石がどのような波紋を起こして広がっていくのか注目しましょう。