2021.12.07 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
激化する極超音速兵器開発競争
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は、11月29日から12月5日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
フランス下院が台湾支持決議、政府同調(29日)。ロシア、極超音速巡航ミサイルの実験に成功(29日)。ホンジュラス、親中派の初の女性大統領誕生へ(30日)。「台湾海峡で問題行動」、米・EU(欧州連合)が中国に懸念を表明(12月2日)、などです。
ロシア政府は11月29日、極超音速巡航ミサイル「ツィルコン(Zircon)」の実験にまた成功したと発表しました。
世界では現在、極超音速兵器の開発競争が過熱しています。ロシア、米国、フランス、中国の4カ国が行っていることが分かっています。いずれもマッハ5(音速の5倍、音速は時速1225km前後)以上の速度に達する「極超音速滑空体」の実験を進めているのです。
ロシア国防相は実験について、ツィルコンは軍艦「アドミラル・ゴルシコフ」から発射され、400km離れたバレンツ海の標的に命中したことを明らかにしています。なお、今回の実験は一連の試験における最終段階の一環として行われたものでした。
欧米がより深刻に捉えているのが中国の動向です。
今年7月、南シナ海上空を飛行中の滑空体から、音速の5倍以上の速度でミサイルを発射する実験を行っていたと英フィナンシャルタイムズが報じました。同誌は、中国は今夏2度の実験を行っていると述べています。
10月27日、米軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部長は、米国にとっては「スプートニク・ショック」(1957年)に「極めて近いものだった」と語ったのです。
スプートニク・ショックとは、ソ連(当時)による人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功の報により、米国をはじめとする西側諸国の政府や社会が受けた衝撃感、さらに危機意識を指す言葉です。
米国にとって衝撃だったことは大きく二つあります。①ミサイルを地球の周回軌道部分に乗せることで射程の制約を事実上取り払う部分起動爆撃システム、②経路を急激に変化させながら飛行することにより、現在米国が配備するあらゆるミサイル迎撃システムを時代遅れの遺物にする「極超音速滑空体」の技術です。これまで極超音速ミサイルの「空中発射能力」を示した国はありませんでした。
中国は2014年以降、極超音速滑空体の実験を繰り返してきていました。すでに「DF17」と呼ばれる中距離ミサイルを実戦配備しています。
今夏の実験は、飛行中の滑空体から、極超音速ミサイルを発射する実験だったのです。全世界の安保環境を転換させるショッキングな出来事でした。
日本のミサイル防衛網は完全に時代遅れのものとなりつつあることを知らなければなりません。