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神様はいつも見ている 6
~小説・K氏の心霊体験記~

徳永 誠

 小説・K氏の心霊体験記「神様はいつも見ている」をお届けします(毎週火曜日22時配信予定)。
 世界平和統一家庭連合の教会員、K氏の心霊体験を小説化したものです。一部事実に基づいていますが、フィクションとしてお楽しみください。同小説は、主人公K氏の一人称で描かれています。

第1部 霊界が見えるまで
6. 人の声か、神の声か

 母はそのお嬢さん育ちのせいか、子供を叱ったり、声を荒らげたりすることはない。
 声も小さく、スローな感じがするほどゆっくり話す。
 けれど、この時の母の声は野太い男の声のように病室に響き、皆驚いた。

 「今からこの体を調べてみる」

 医者もあっけに取られていた。

 「気が狂った!」

 叔父は、そうつぶやいた。

 誰もが、生死の境にいる夫の様子に妻の気が動転してしまったとしか見えなかった。私も動揺し、叔父の言葉に同感した。

 「かあちゃん、狂っちゃった!」

 私はそう言いながら、そばにいた姉を見た。姉もあぜんとしたように口を開けていた。二人とも母親が狂ったとしか思えなかったのだ。

 目をつり上げ、口を大きく開け、船乗りや土方のようなしわがれた声だった。

 「この体を一週間調べてみて、自分のことが自分でできないようだったら、霊界に連れていく」

 母の野太い声が続いた。

 「しかし調べてみて、自分のことを自分でできるまでに回復する可能性があるようだったら、霊界から引き戻してくる」

 母は何を言っているのだろう。自分で自分の言っていることが分かっているのだろうか。

 私も姉も茫然(ぼうぜん)とし、親族も皆、あきれ返ったかのようにぽかんとしていた。特に困惑していたのは医者だった。

 医者の自分が診断結果を「今夜まで」と言ったのに、患者の妻はそれを理解できずに狂ってしまった。かわいそうに…。

 手が付けられないとばかりに、医者はあきれたように首をふりながら病室を出ていった。

 残された私たちは、顔を見合わせた。兄も姉も、同じように困惑していた。そして、じっと母の顔を見守るばかりだった。

 母はしばらくすると正気に戻った。不思議そうに辺りを見回していた。

 「母さん」

 姉が母の体を揺すぶった。

 「どうしちゃったの?」

 「ええ?」

 母は困惑したような表情だった。自分でも何が起こったのか、分からないようだった。

 兄と姉が担当医師の話したことを説明するとともに、今起こった状況を話すと、母はますます困惑した。

 「私が確かにそう言ったの?」

 何度も聞くので、そのたびに同じような説明をし、周囲のおじさんや親戚もうなずきながら母に説明した。しまいには、母も納得したのか、うなずくように首を振った。

 母親は迷うように首をかしげた。

 この事態をどう考えればいいのか。

 医者は助からないと言う。しかし、自分の体に乗り移った神様(?)は、助かるかもしれないと言う。
 いったいどちらを信じたらいいのだろう?

 母親は迷っていたが、死ぬと言う医者よりも、生き返るかもしれないと言う神様の言葉にすがり付きたいと思ったようだった。

 「神様がそう言うなら、きっとあの人は生き返る」

 普通ならば信じ難いことだったけれども、生死の境にいる夫の命が懸かっていることなので、医者の言うことよりも、そのわずかな可能性に賭けてみようと思ったのかもしれない。

(続く)

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 次回は、「父がフランケンシュタインに」をお届けします。