神様はいつも見ている 1
~小説・K氏の心霊体験記~

徳永 誠

 今回から、小説・K氏の心霊体験記「神様はいつも見ている」を毎週火曜日配信(予定)でお届けします。
 世界平和統一家庭連合の教会員、K氏の心霊体験を小説化したものです。一部事実に基づいていますが、フィクションとしてお楽しみください。同小説は、主人公K氏の一人称で描かれています。

第1部 霊界が見えるまで
1. 開かれた霊眼

 2018年4月23日、その日、私は心筋梗塞で死にかけていた。

 ポトリ、ポトポト、ポトリ…。
 洞窟の上から落ちてくる滴のような音が耳鳴りのように響く。

 水底の泥から生まれる泡のように、意識が闇の沼から戻ってくる。もどかしいほどの時間がたち、感覚がにじみ出るように皮膚に泡立ってくる。
 頭の奥に鈍い痛みを覚え、しびれたような痛覚に意識が急上昇していった。

 ハッとなった。
 ここはどこだろうか。
 どうやら病院の一室のようだ。
 そうだ。私は死にかけて入院したのだ。そして意識が無くなったのだ。

 意識を失っていたその12日間、私は見えないものが見える「霊眼」が開けたのだ。
 霊眼を通して過去のことが走馬灯のようによぎっていた。

 ああ、また生かされたのか!
 安堵(あんど)と同時に、後悔の念が脳裏に現れる。もっと早く病院に行っていればよかったのだと…。

 体は動かないが、意識は夜の海のような想念の中を泳いでいた。痛みは感じなかったが、どこか麻痺(まひ)したような感覚だった。
 しかしまだ意識は明瞭ではなく、海の闇をただよっていた。

 いつの間にかまた眠ってしまったようだ。
 意識が戻ると、見知らぬ天井が見えた。

 暗い。真っ暗だった。夜になったのだろうか。
 私はそう思って二、三度まばたきをした。夜ではなかった。
 薄暗い明かりがぼんやりと辺りを照らしていた。
 だがその明かりさえ、何か黒く密集した雲のようなものによって霞(かす)んでいた。

 あれは何だろう?
 不思議に思った私は、目を凝らしてそれを凝視した。
 雲ではなかった。
 それは虫だった。虫に見えた。
 黒い小さな虫がびっしりと天井に張り付いていたのだ。

 虫の塊が細かくうごめいている。羽音や脚(あし)をすり合わせる音が聞こえてくるようだった。
 「うわーっ!」
 次の瞬間、私は恐怖感で心の中で叫んでいた。

 私の内心の動きを察知したかのように、虫たちは急にこちらを見た。
 それは虫のようで虫ではなかった。
 虫ならば小さな集団だが、その黒い塊たちは伸びたり縮んだりしていたし、何かぶつぶつとつぶやいていた。

 やがて、私はそれが悪意を目に光らせた悪霊たちであったことを悟った。恐怖のあまり思わず瞬間的に目を閉じてしまった。

 見なければいい。
 見なければ、そこには何も存在しないのだ。
 そう思ったのだが、そうはならなかった。

 目を閉じると、どういうわけか悪霊たちの存在感が、かえってますます目を開けていた時よりも現実感を帯びてきた。
 そればかりではなく、皮膚が泡立ち全身が悪寒に襲われ、その上、腐ったどぶのような悪臭が鼻孔を突き刺した。

 目を閉じていてはいけない。
 本能的にそう思った。
 目を閉じれば、閉じていた霊眼が開き、あの世の見えざる霊がはっきりと見えてしまうのだ。
 それが美しい光景であればまだいい。
 霊眼によって見えたのは、悪意の塊、悪霊たちの集団だったのだ。

 ぞっとするような気持ちの悪さ、吐き気がするほどの嫌悪感が喉の奥に込み上げた。
 恐ろしい恐怖感の中で、悪霊を見ないように私は目を強いてこじ開けて、天井を見続けた。そのようにすれば、なんとか恐怖感を抑えることができたからだ。

 見ないようにするためには、顔をそむければよかったが、全身が麻痺したために、首を動かすことができなかった。
 目だけがぎょろりと開けている状態のまま、私はただただ生死の境をさまよっていたのだった。(続く)

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 次回は、「再び生かされて」をお届けします。