夫婦愛を育む 171
あるハネムーンのかたち

ナビゲーター:橘 幸世

 海外のリゾート地への新婚旅行。すてきですね(近年はコロナ禍で難しいですが)。
 でも夫が新妻を放っておいて自分一人マリンスポーツに興じていたらどうでしょう。妻は数年たっても、その時の恨みを消せないでいるそうです。

 悪気はなくても、相手の気持ちに疎いと良い関係を築くのはなかなか大変です。そういえば、一昔前「成田離婚」なんて言葉がありました。
 それはさておき、こんな新婚旅行はいかがでしょうか。

 アイラとルースは、第二次世界大戦がもたらした試練を乗り越えて長年の思いを実らせ、「カントリーロード」の歌詞に出てくるブルーリッジ・マウンテンの麓、アッシュビルにハネムーンに行きます。

 アメリカ南部屈指の観光地ですが、彼らは観光スポットには行きません。芸術に造詣の深い妻ルースの希望で、近くにあるブラック・マウンテン・カレッジを真っ先に訪れます。

 その日たまたま教授や学生たちによる絵画展が開かれていました。ルースは「まるで宝箱を見つけたような」驚きと感動を覚えます。

 その場にいた画家(の卵)たちと何時間でも話が尽きません。彼らの会話は、芸術には全く疎い夫アイラにはまるで外国語のように聞こえます。それでも彼は、ハネムーンが妻にとって最高の思い出になることを最優先し、妻に付き合います。

 結局二人は、展示会最終日まで5日間通い続けました。その数日後、帰路に就く前に、二人はもう一度ブラック・マウンテン・カレッジを訪れます。夫が妻にサプライズを用意していたのでした。
 彼女が一番気に入っていた絵画6点をプレゼントしたのです。

 「絵を買ったのは自分のためさ」と彼は言います。
 絵を見ている時のルースはキラキラして一層魅力的に見えました。内なる何かが目覚めたようなオーラを放っていたのです。

 そんな彼女を見ていたいから、つまるところ自分のために買ったのだ、と(やはり男性は愛する女性を喜ばせたいんですね)。

 それに対してルースはこう答えます。
 「私がそれまでと違って見えたとしたら、それは絵のせいじゃないわ」
 妻が好きなこと(ましてや自分は全く関心のないこと)をするのに何時間でも付き合ってくれる男性はそうそういません。

 彼女は、そんな男性と結婚できた自分の幸運をかみしめていたのです。絵を見ている自分を見る夫の眼差しに、溢(あふ)れんばかりの愛を感じ取った彼女。
 自分が変わったとしたら、彼の愛情故だと言います。

 これは、アメリカの小説家ニコラス・スパークス著『ザ・ロンゲスト・ライド』に出てくる老夫婦の回想シーンの要約です(正確には、死にかけている夫を励まそうと妻が霊界から訪ねてきて会話をしています)。

 自分では決して手にしないタイプの本ですが、人から頂いたので読んでみました。夫が愛を与え妻が美を返す、創造理想のお手本のような夫婦の愛の形に感動して、皆さんに紹介したくなりました。

 愛する女性を喜ばせたい男性。
 愛されることで輝く女性。

 夫婦愛を育まんとするとき、夫は妻を喜ばせる工夫をし、妻はちゃんと愛を感じ取り、受け取れるよう努めたいですね。

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