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世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

中国のTPP加入申請は「かく乱」戦術

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、9月13日から19日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 北朝鮮、長距離巡航ミサイル実験成功と発表(13日)。北朝鮮、弾道ミサイル2発日本海に向けて発射(15日)。韓国、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)実験成功、実戦配備へ(15日)。米英豪、安保で「AUKUS」(オーストラリア〈AU〉、イギリス〈UK〉、およびアメリカ合衆国〈US〉の三国間の軍事同盟)創設へ(15日)。中国、TPP(環太平洋パートナーシップ)への加盟申請(16日)。EU(欧州連合)、インド太平洋戦略を正式発表(16日)、などです。

 中国国務省は9月16日夜、TPPへの加盟に向けて正式に申請したと発表しました。
 寄託国(条約締結の管理を委任された国)ニュージーランドに申請書類が提出されたのです。

 習近平主席は2020年11月、TPPへの参加を「積極的に考える」と表明しており、中国はその後、加盟国への地ならしを開始しました。
 その一つが申請の提出国(寄託国)であり、加盟国間で主要な地位を占めるニュージーランドでした。その他シンガポールにも働き掛け、外相から「TPP加盟への関心を歓迎する」との言質を引き出しています。

 しかし加盟に向けたハードルは高いのです。関税撤廃率はほぼ100%であり、中国も加わる「地域的な包括的経済連携(RCEP)」協定と比べても水準が高いのです。さらに、政府が国有企業を補助金などで優遇して競争をゆがめることを禁じており、習指導部が国有企業を優遇したままであれば、交渉は最初からつまずくことになります。

 また、協定にはデータ流通の透明性や公平性を確保する3原則を盛り込んでいます。その一つが「『ソースコード』の開示要求の禁止」です。
 中国では、外資系企業が許認可の取得などで、ハイテク技術の開示を地方政府などから迫られる例が後を絶ちません。

 TPPはまた、政府調達でも国内外企業の差別を原則的になくすよう求めていますが、中国はこれまで、安全保障を理由に「安可目録」などと呼ぶリストを作り、外資系の排除を進めてきていたのです。

 そして、中国で9月に施行したデータ安全法(データセキュリティ法)などで、データの統制を強化していますが、データの国外持ち出しの禁止などは加盟国の反発を招く可能性もあるのです。

 中国の狙いを考えてみることにします。
 中国にとって申請によって失うものは何もなく、むしろ米国を揺さぶるとともに、国際協調に前向きな姿勢を示すことができます。米政権が友好国を巻き込んで構築を進める「対中包囲網」の切り崩しができるのです。

 アメリカが新たな自由貿易協定などに消極的な中、2022年1月の発効を目指す東アジアのRCEPに続き、経済的な影響力の拡大を狙い、アジア、太平洋地域の通商貿易分野で主導権を握る道を開きたいと考えているのでしょう。

 現在のTPP加盟国は11カ国です。英国も加盟を申請しています。
 問題は、中国の申請によって半導体製造などで強みを持ち加入に前向きな台湾も取り入れてサプライチェーンの「対中包囲網」を築こうとする算段が崩れる可能性もあるのです。

 中国のかく乱戦略恐るべし、です。日本は断固阻止すべきです。