2018.04.23 12:00
コラム・週刊Blessed Life 12
共感とコミットメント
新海 一朗(コラムニスト)
アマルティア・セン(1933~、ノーベル経済学賞受賞)というインド人の経済学者は、経済と倫理の関係を深く探究した学者として知られるが、経済が自己利益を追求する活動という一般的なイメージが強いのに対して、セン自身は彼の哲学的立場から、「共感(sympathy)」や「コミットメント(commitment:責任を持った関わり)」が経済活動の動機となるべきだと主張する。
センの言う「共感」は、「他者への関心が直接に己の福祉に影響を及ぼす場合に対応している」とみて、自分の利益と他人の利益は一致するという視点に立脚する。
他方、「コミットメント」は、「他人が苦しむのを不正なことと考え、それをやめさせるために何かをする用意がある」とするような場合であり、責任を持った関わりを明確にする。従って、コミットメントの場合、自分の利益にとって不利であっても、「不正なこと」をやめさせようとする行動原理が働くことになる。
アマルティア・センの経済学理論は、多岐にわたっており、一口では言えないものがあるが、経済学の中に、彼の言う「コミットメント」のような概念を入り込ませることによって、経済学の常識が根本からの見直しを余儀なくされる可能性が出てきてしまったわけである。この背景には、貧困や飢餓などの社会問題を凝視し続けたセンの熾烈な問題意識があったことは言うまでもない。