シリーズ・「宗教」を読み解く 176
キリスト教の人生観⑧
悔い改めから出発したキリスト教信仰の伝統

ナビゲーター:石丸 志信

 キリスト教は人種・民族の違いを超えて世界に広がり2000年の歴史を経てきた。
 今日まで長き伝統を継承し得たのは、たとえイエスが残した言葉がわずかであったとしても、その言葉を心に刻み、その言葉どおりに生きていこうとした篤実な信仰者が後を絶たなかったからだ。
 そして彼らは、キリストにピッタリ一致し得なかったとしても、初代教会の土台を据えた十二使徒の生き方に一致することはできた。

 ペテロを頭(かしら)とする十二使徒は、公生涯においてイエスが選んだ主要な弟子たちだ。イスラエルの十二部族を象徴する十二人は、イエスの呼び掛けに応じて、家族をさておいて彼に付き従った。
 イエスの語り行うことを全て理解したわけではないが、懸命に従っていたことは間違いない。しかしユダヤ教指導者の反対が強まり、彼らがイエスを捕らえ殺そうとする中で、心は乱れ、恐れを抱き、最後の最後はイエスを裏切ってしまった。

▲ホントホルストの「ペテロの否認」(ウィキペディアより)

 最後の晩餐(ばんさん)の後、ゲッセマネの園で祈る時、ペテロらはイエスの立たされている深刻な状況が分からず眠ってしまった。
 捕らえられたイエスが大祭司カヤパの屋敷に引かれていく時、訳も分からずついて行ったが、「おまえもあの人の弟子か」と問われると、怖くなり違うと否定してしまった。
 銀貨30枚でイエスを売ったイスカリオテのユダだけでなく、ペテロをはじめ他の使徒たちも皆裏切ったのだ。

 ペテロが再び十二使徒の頭となるのは、イエスを裏切ったことの重大さを知って、涙ながらに悔い改めたところから始まる。
 キリスト教信仰の伝統は、この悔い改めがあって初めて出発点に立つ。