シリーズ・「宗教」を読み解く 171
キリスト教の人生観③
キリストに倣う生き方

ナビゲーター:石丸 志信

 キリスト教の歴史においては、イエス・キリストによって選ばれた使徒たちの教えと規範を基(もとい)として、初代教会の伝統が形成された。

 イエス・キリストの公生涯の歩みと使徒たちの教えが記された新約聖書のみことばを探究し実践しながら共同体を世界に広げる中で、普遍的な統治機構の整備がなされ、安定的な発展がなされていくことになる。

 そうした中で発展の原動力となったのは、全てを投げ出して、みことばの本質を生きようとする人たちだった。

 厳しい迫害時代が終わって登場してくるのが隠修士で、迫害に匹敵するような厳しい環境に自らを追い込み、サタンの誘惑と格闘してそれに打ち勝ち、イエス・キリストが示した愛の模範に倣おうとする営みを続けた。
 それはやがて修道制の基となり、キリスト教の伝統を支える岩盤をなすことになる。

▲トマス・ア・ケンピス(ウィキペディアより)

 千年にわたる中世キリスト教の活力を理解するには修道の歴史を知るほかはない。
 15世紀になって、その伝統を集大成する一冊の書物が著された。ドイツの修道者トマス・ア・ケンピスの『キリストにならいて』である。

 このタイトルはキリスト教霊性の本義を端的に表していると思える。すなわち、キリストに倣う生き方こそが、キリスト教の人生観そのものなのだ。