シリーズ・「宗教」を読み解く 169
キリスト教の人生観①
イエス・キリストの受難、死、復活

ナビゲーター:石丸 志信

 伝統的なキリスト教の暦では、復活祭を頂点とし、前の40日間は四旬節と呼ばれる。復活祭に至る最後の一週間は聖週間と呼ばれ、イエス・キリストの最後の一週間を、時間の経緯を追いながら記念する。そして復活祭の後50日間、復活節を喜びのうちに過ごす。

▲聖墳墓教会の天蓋(てんがい)のイコン(エルサレム)

 早春から初夏にかけての90日間をイエス・キリストの受難、死、復活の記念に充てるのは、一つには、新しい入信者の信仰教育のためだ。

 自らの罪のために生命をささげたイエス・キリストの姿を仰ぎ見ながら悔い改め、涙し、その上で許され、実際に聖霊によって新たに生まれる体験をしながら、その意味を、実感をもって理解していく。それは2000年前の弟子たちの経験を追体験することにもなる。
 新しい兄弟姉妹を迎え入れる共同体の一人一人にとっても、信仰生活の原点に立ち会える機会ともなる。

 イエス・キリストの受難、死、復活の一連の出来事の中に、キリスト教信仰のエッセンスがあると言えるのだ。
 キリスト教を理解する場合、「イエスの十字架を信ずれば救われる信仰」と単純に定義できるものではない。
 滅びることのない新たな伝統形成を模索する者にとって、長い年月を繰り返して祝祭を続けてきた選民の伝統の中に重要なヒントが見いだせるのではないかと思う。