世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

イスラエル・パレスチナ「全面戦争」の可能性も

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は、5月10日から16日までを振り返ります。

 この間、以下のような出来事がありました。
 イスラエル軍とハマス、武力攻撃の応酬始まる(10日)。米英独、国連イベントで中国のウイグル問題を批判(12日)。日本、デジタル改革関連6法が成立(12日)。日米仏の共同訓練の定例化の方針発表(15日)。原発「処理水」問題、韓国との協議日本受け入れへ(15日)、などです。

 イスラエル・パレスチナの衝突が「全面戦争」に向かう可能性が出てきました。何とか回避しなければなりません。
 きっかけは4月中旬、東エルサレムのイスラム教の聖地「アルアクサ・モスク」前で起きた、イスラエル治安警察とパレスチナ人の衝突(負傷者は330人以上)でした。イスラエルによるモスクへの入場制限に反発したのです。

▲旧エルサレム市街地

 武力攻撃の応酬となった直接的原因は5月10日、イスラム原理主義勢力・ハマスがイスラエルに対してロケット弾を発射したことにあります。自衛権の行使としてイスラエル軍が報復したのです。

 16日現在、それぞれの当局によると、イスラエルの死者は計10人、ガザ地区の死者は計188人、ヨルダン川西岸地区の死者は計13人です。

 米国・トランプ前政権の積極的な働き掛けがあって中東情勢の最近の焦点は、中東各地の武装勢力を支援して影響力増大を図るイランと、イランの動きを懸念するアラブ諸国との対立となっていました。その結果、イスラエルとパレスチナ自治区・アラブ諸国との対立問題は相対的に弱まったのです。

 ハマスは1987年創設されました。エジプトのイスラム組織「ムスリム同胞団」を母体とする組織です。2007年にガザ地区を武力制圧し、今も実効支配しています。
 問題は、イスラエルと敵対するイランの支援で兵器の能力を向上させているとされる点です。それ故に米国はハマスを「テロ組織」と認定。交渉相手とは認めていません。

 さらに懸念すべきことがありました。イスラエル軍は15日、イスラエル北部で計画されていたテロ攻撃を阻止したと発表しました。内容は、14日にレバノン国境で柵を切断している人物に発砲し撃退。現場から爆発物が見つかったというのです。この人物について、レバノン南部を拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラは、自派の戦闘員だと認めました。

 もしヒズボラが越境攻撃を始めればイスラエルは窮地に陥る恐れが出てきます。北のヒズボラ、南のハマスに挟撃され、国内やヨルダン川西岸のデモにも対応し、多正面作戦を強いられることになるからです。

 米国の仲介は効果が出ていません。イスラエルはバイデン政権に対する不信があります。イラン核合意への復帰を目指して軌道修正しようとしているからです。
 一方、イランの支援を受けているハマスやヒズボラは、今強く出ても大丈夫と考えているのでしょう。

 イランはこれまで、中東各地の武装勢力を支援して影響力を強めることを安全保障政策の柱にしてきました。既述のようにハマスとも強いつながりを持っています。もし今回の衝突が本格的な戦闘に発展した場合、革命防衛隊などがハマスへの支援を通じて干渉を強める可能性は高いのです。

 「バイデン政権は弱い」との判断が生んだ混乱という側面を持っていると言えるでしょう。強くなければなりません。