2021.04.13 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
ソウル、釜山市長選で野党が圧勝
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は4月5日から11日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
米国がワクチン外交で中露に対抗へ(5日)。米国務省プライス報道官、北京五輪に不参加も選択肢、と述べる(6日)。ソウル、釜山市長選で与党惨敗(7日)。LGBT理解増進法、今国会成立目指す~自民特命委が議論再開(8日)。米予算教書、国防費は実質減額(9日)、などです。
来年3月の大統領選の前哨戦といわれた、ソウルおよび釜山市長選投開票が4月7日に行われました。
結果は野党候補者がそれぞれで圧勝。両市長選ともにセクハラ問題が発覚した与党市長の自殺、辞任に伴う補欠選挙だったのです。
ソウルでは野党「国民の力」の呉世勲(オ・セフン)氏(60)が当選。釜山では野党「国民の力」の朴亨埈(パク・ヒョンジュン)氏(61)が当選しました。
今回の選挙結果を受けて、韓国政治の潮目が大きく変わる可能性が高くなりました。
与党惨敗の原因を挙げてみます。
主因は、何といっても宅地開発を担う住宅公社(韓国土地住宅公社/LH)など公共機関の職員による土地投機疑惑です。
ソウル近郊に建設する約7万世帯の新都市が舞台となりました。計画の発表前つまり値上がり前に、土地を買いあさっていたことが発覚したのです。
文在寅氏自身も、退任後の私邸用に購入した土地の一部が農業用地から後に宅地に変更されて、不当な利益を得たとの指摘もあります。
文政権発足以来、ソウルのマンション価格が8割以上も上昇しており、市民の怒りが爆発するのも当然でした。
注目すべきは、若者の文氏離れです。
KBSなどテレビ3社が年齢別、男女別に調べた支持率の出口調査の結果、40代男性と18~20代女性で与党候補が野党候補を上回っただけで、それ以外全ての年代層において野党候補が上回ったのです。特に18~20代の男性で野党候補が与党候補を50%以上高い支持率で圧倒しました。30代男性もほぼ2倍の水準でした。
顕著なのは、20、30代の文大統領離れです。彼らは朴槿恵(パク・クネ)前大統領の親友による国政介入事件を受け、清廉な政治を文政権に託しました。
しかしその期待は裏切られたのです。強い失望感を投票で示した形になりました。
今後の展開についていくつかの予想を提示しておきたいと思います。
まず、意欲を示し始めた日韓関係改善は遠のくのではないかと思われます。文政権は、北朝鮮との協力再開を見据えて「東京五輪は南北間や米朝間の対話の機会になる」と協力を表明していました。しかし北朝鮮は4月6日、東京五輪への不参加を公表。日韓関係改善を南北融和のステップにする構想は頓挫することになってしまったのです。
ところが、静かに浮上している一つのプランがあります。それは、政権浮揚と大統領選勝利に向けた起死回生策として、来年2月の北京冬季五輪開会式に合わせた南北首脳会談を模索する、というものです。
最悪のシナリオの一つと言えるでしょう。