2021.03.23 12:00
世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~
米中外交の「激突」
渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)
今回は3月15日から21日までを振り返ります。
この間、以下のような出来事がありました。
金与正氏、米韓合同演習を非難(15日)。日米「2+2」協議開催(16日)。米韓「2+2」協議開催(17日)。プーチン氏は「殺人者」とバイデン氏~ロシア、駐米大使召還(17日)。米中外交トップ協議(18、19日)開催、などです。
米バイデン政権の外交、中でも「自由で開かれたインド太平洋戦略」が本格的に始動しました。「中国は国際システムへの唯一の競争相手」との明確な位置付けで動き出したのです。
米政権の要人が日本と韓国を訪問して外務・防衛担当閣僚による安全保障協議(2+2)を主導、さらにアラスカ・アンカレッジで米中の外交トップ会談を行いました。
米政権の対中国警戒心高まりの要因となった出来事として、2015年9月の米中首脳会談を挙げなければなりません。
会談後の共同記者会見で習近平主席は、南シナ海の人工島建設には「軍事化の意図」はないと明言し、約束。しかし約束は破られました。
ブリンケン米国務長官は当時、国務副長官として関わり、サリバン米大統領補佐官もバイデン米副大統領(当時)の補佐官として関わっていたのです。いわば習政権によって「裏切られた」当事者なのです。
3月18日、米国側はブリンケン国務長官とサリバン大統領補佐官、中国側は中国外交トップの楊潔篪政治局員と王毅外相が対面で会談に臨みました。
冒頭、ブリンケン氏が発言しました。人権や台湾問題などで中国の対応に「深刻な懸念がある」と指摘したのです。
楊潔篪氏は即座に、「内政干渉」だと猛反発し、冒頭の数分をメディアに公開する予定が、1時間以上も激しくやり合う異例の展開になりました。
中国は今回の会談を「戦略対話」と呼び、2月に習氏がバイデン大統領との初の電話協議で呼び掛けた「対話メカニズムの再構築」を目指しました。しかしブリンケン氏は今月の議会証言で、「戦略対話ではない」と明確に否定しています。
オバマ政権下で米中の懸案を話し合うために毎年閣僚級の「米中・戦略対話」を行ってきました。中国はその場を米国を管理する手段として、さらに「G2」=「米中二大国」との印象を世界に与えることに成功したのです。米国にとっては外交的失敗でした。
今年は、中国共産党の創立100周年です。習指導部はこの一年を「歴史的転換点」とする演出を考えているでしょう。
中国は、一見すれば米国との全面対決も辞さない強気な態度を見せているのですが、国内向けの演出要素が強いのです。本音は、一日も早い米国との関係改善です。
昨年6月、ポンペオ米国務長官(当時)と楊潔篪氏の間で米中外交トップ同士の会談が行われた場所はハワイです。相互主義の外交原則からすれば、今回は中国で実施する必要があるのですが、そうはなりませんでした。
しかも会談前日、米国は中国国有通信会社の事業免許取り消しに向けた手続きを開始しています。事実上の対中経済制裁に踏み切ったのです。中国にとっては屈辱的な扱いと言えますが、会談を拒否することはありませんでした。
中国側は、米中外交トップの今回の会談を「米中首脳会談」に結び付けたいという戦略があります。
来年秋に開催される第20回共産党大会の前に、米中関係を何とか正常に戻したい習政権は、メンツを捨ててでも実利を取ろうという思いで臨んだのでしょう。
今回の会談は外交「激突」の印象ですが、両者とも、そこには冷徹な判断に基づく言動があったのです。