世界はどこに向かうのか
~情報分析者の視点~

トランプ氏、弾劾裁判で無罪に

渡邊 芳雄(国際平和研究所所長)

 今回は2月8日から14日までを振り返ります。

 この間以下のような出来事がありました。
 WHO(世界保健機関)調査団、武漢研究所漏えい説を否定(9日)。バイデン氏、習氏と初の電話会談(10日)。中国、英BBCの国内放送を不許可に(12日)。トランプ氏、弾劾裁判で無罪に(13日)。ミャンマーデモ隊に治安部隊発砲(14日)、などです。

 トランプ大統領(当時)が支持者を扇動し、米連邦議会議事堂を襲撃させたとして追訴された弾劾裁判が2月9日に始まり、13日に結審。トランプ氏は無罪となりました。

 連邦議会襲撃事件では警察官一人を含む5人が死亡、140人以上の警察官や警備員が負傷しました。

▲米連邦議会議事堂

 弾劾裁判は上院で行われ、上院議員(100人)が陪審員役となります。検察官役は弾劾管理人と呼ばれ、民主党下院議員からの9人です。上院議員の3分の2以上の賛成で有罪となります。当初16日に評決とみられていましたが、これまでの最速で13日となりました。

 9日から裁判が始まり、冒頭、弾劾裁判の合憲性を巡る評決がなされ、合憲との判断が下りましたが、民主党と一緒に賛成票を投じた共和党上院議員は6人にとどまりました。

 翌10日、11日と追訴委員による陳述が行われました。弾劾管理人(検察官役)の一人、民主党のラスキン下院議員はまず、襲撃事件に関連してメディアやSNSに投稿された、約13分のビデオを上映しました。

 その中には、トランプ大統領が議事堂に向かう行進直前の演説で「死に物狂いで闘わなければ、この国はこれ以上持たない」と訴える様子や、呼応した支持者が「トランプのために闘え」と叫び、乱入する様子が映し出されていました。襲撃を扇動した責任は免れられないとラスキン氏は主張したのです。

 また他の委員は、「仮にトランプ氏が公職に復帰して再び反乱を扇動した場合、私たちが責任を負うことになる」と訴えました。

 12日には、トランプ氏の弁護団が冒頭陳述を行いました。
 その要点は、退任した大統領への弾劾裁判は「憲法違反」である。この裁判は「政治的な報復であり、魔女狩り」である。さらに、トランプ氏が勝利した2016年大統領選で民主党議員が複数の州の選挙結果に異議を唱えた映像を流し「制度の枠内で選挙の完全性に関し訴訟を起こすのは、『反乱の扇動』に当たらない」と主張しました。

 また別の弁護士は、襲撃した暴徒に政府を完全に乗っ取る計画はなく「反乱ではない」こと。トランプ氏の直前演説には「平和的、愛国的に訴える」ことが強調されており、「反乱の扇動」で有罪にすることはできない、と訴えたのです。

 そして翌13日、弁護団と検察官役の民主党下院議員団(追訴委員9人)の双方による最終弁論を経て結審となり、「有罪」57対「無罪」43で、トランプ氏は無罪となったのです。

 連邦議会議事堂襲撃事件(1月6日)の逮捕者には、明らかな反トランプ、過激左翼主義者も入っています。さらにトランプ氏が議事堂に向かおうと語った意図がなんであれ、自身の呼び掛けによって支持者がどのように行動するのか、また過激な左翼主義者がトランプ氏に致命的な傷を負わせるために「襲撃」を扇動するかもしれないとの想定が必要でした。

 「無罪」評決が出されたとしても、事件に対する結果責任はあると言わねばなりません。共和党の今後に注目していきたいと思います。